第三話 勇者様御一行
城下に残っていたところでやることもないので、俺は生まれ故郷であるカブの村まで戻ってきていた。
住んでいる人はそれこそ三十人程度しかいないが、のどかで静かないい村である。
「ただいま」
家のドアを開けると、洗い物をしていたお袋が返事をする。
「お帰りなさいマサヨシ。どうしたのその格好、まるで勇者様みたいじゃない」
「ちょっと雰囲気を変えようと思ってね。いつまでもシャツにズボンじゃ舐められるだろ?」
一体誰に舐められるのかは自分でもわからなかったが、勇者に選ばれてすぐパーティを追い出されたなんて恥ずかしくて言えるわけがない。適当にごまかすしかなかった。
「まぁなんでもいいけど。そうそう、帰ってきて早々で悪いんだけど、お父さんの手伝いをしてきてくれない?今日までに収穫しないといけないダイコーンがまだたくさんあるの」
ダイコーン。主に鍋料理や煮込み料理に使われる白色の野菜だ。
ブッリ(魚)と一緒に煮て作るブッリダイコーンは俺の大好物である。
「わかった」
もはや邪魔以外の何者でもない装備は家に置いて、俺はすぐに畑に向かった。
―――
ダイコーン収穫に夢中になっている間に日が暮れていた。
やはり汗を流して働くのは気持ちがいい。生きているという実感を与えてくれる。俺は間違いなく勇者よりも農耕者の方が性にあっているのだろう。
夕飯、収穫したばかりのダイコーンで作った煮物を食べていると、突然家の扉が開け放たれ、村一番の働き者であるゴンザブロウが慌てた様子で入ってきた。
「た、大変だぁ村長!」
村長とは俺の親父のことである。
「どうしたゴンザブロウ、そんなに慌てて」
「どうしたもこうしたもねぇ!勇者様御一行がオラ達の村に来てくださったんだぁ!」
勇者様御一行という単語を聞いて箸が止まる。
嫌な予感しかしないぞおい。
「勇者様だと!?大変だ、早くおもてなしの準備をしなくては!母さん!とびきり美味い飯の準備をしておいてくれ!」
そう言い残して親父は忙しなく家を出て行った。
この村、というかこの国では勇者が村や街に来たら歓迎しなければならない慣わしがある。
「何してるのマサヨシ!あんたも早くお出迎えに行きなさい!」
「いや、俺は……」
渋る俺だったがお袋の鬼気迫る剣幕に押され止む無く家を出た。