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第十三話 勇者裁判

 いつのまにか俺が悪者になっている不自然な流れに違和感を覚える。


 少し考えればおかしいとわかるはずなのに、誰一人としてそれに気付いているものはいない。


 そう。こんな不可思議な現象は、魔法としか考えられない。


 それこそ、ゴブリンをけしかけ畑を荒らさせたことがある魔女ならば不可能じゃないはずだ。


 魔女を見る。


 すると、俺の予想どおりその顔には暗い笑顔が浮かんで――


「えっぐ、ひっ、うっぅ……」


 なかった。ガチ泣きしていた。


 笑っているなんてとんでもない。子供のように涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、隠そうともせずに大泣きしている。


 あれれぇ?おかしいぞぉ?(二回目)


「お前がこの村をどれだけ大切に思ってくれているのかはわかった。だが、女の子をそんな親の仇を見るような目で見るのはやめなさい。怖がっているじゃないか」


「多分今の俺なら親父が殺されてもこんな顔しないわ」


 そもそも本当に泣いてるのか?フリだけなんじゃないの?


 確認しようと魔女に一歩近づくと、後ろからトロールに羽交い締めにされた。


「お待ち下せぇ兄貴!俺がこんなことを言うのは違うかもしれねぇ……!でも、殺すのだけは勘弁してやってくれねぇか……!」


「殺す?お前何言って……」


 トロールの言葉を聞いて、村人達が魔女の前で壁を作る。


「殺すなんて、いくらなんでもやりすぎだぁマサヨシ!昔の優しいお前にもどってけろ!」


 三軒隣のじっちゃんが悲痛な声でそう訴えかけてくる。


「いや殺さないから。ただちょっと顔を見ようと思っただけだから」


「早まるなぁ!マサヨシぃ!」


 薬屋の婆ちゃんが俺の体に飛びつく。


「殺さねぇって言ってんだろ!ねぇいつまで続けんのこのくだり。もう面倒くさいから帰っていい?」


「昔のお前は……」


「だからもういいって言ってんだろうが!」


「落ち着いて下せぇ兄貴ぃ!兄貴ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 誰か助けてけろ。


―――――


「で。お前はなんでゴブリン達をけしかけて畑を荒らすようなことをしたんだ」


 未だにめそめそしながら俺の前で正座している魔女に問いかける。


 ちなみに、俺の四肢は村人によって取り押さえられている。


 俺、そんなに人を殺すように見えるのかなぁ。平気でそんなことする奴だと思われてたのかなぁ。


 辛ぇわ。


「やって……ないもん……あたしじゃないもん……」


「じゃあ何か。お前の他にもあの森に魔女がいて、そいつが本当の黒幕だとでもいうつもりか?」


 魔女は答えず俯いたままだった。


「それならなんであそこで俺たちを襲ってきたんだ」


「馬鹿そうだったから……」


「あ”あ”?」


「ひっ」


「やめるんじゃあマサヨシぃ!」


 魔女を見て随分前に村を旅だった孫のことでも思い出したのか、庇護欲にかられたじいさんばあさんがひっついてくるのを心底鬱陶しく思いながら魔女を見る。


「本当は?」


「ほ、本当は……その……人探しを……してて。けど、迷っちゃって……。普通の人と会えたの、久しぶりで……嬉しくて……。ちょっと舞い上がっちゃって……」


「What?」


 思わず知らない世界の言語が飛び出してしまうくらいには混乱した。


「おばあちゃんからもらったばっかりの杖も自慢したかったし、作ってもらったばっかりの可愛い服も見せびらかしたかったし、頑張って使えるようになった魔法も見せてやりたかったのっ!そう、思って……そう思った、だけだったのに……」


 魔女が手元に置いてある変わり果てた姿の杖(※おばあちゃんからもらったばっかり)に視線を落とし、ポタポタと涙を零す。


 さらに服(※作ってもらったばっかりの可愛いやつ)の埃(※俺たちが簀巻きにして地面に放り投げたせいでついたやつ)に気づいてぱんぱんと叩いて落としていた。


「え、じゃあマジで何もしてないの?」


 こくんと魔女が頷く。


 あれれぇ?おかしいぞぉ?(三回目)


「……」

「……」

「……」


「え、何?なんでみんなそんな目で俺を見るの?それどう考えても同郷の仲間にしていい目じゃないよね?わかってる?」


 無駄だとわかっていながら抗議するが聞いてもらえそうになかった。


 最後の頼みの綱であるトロールを振り返る。


「おいトロール!こいつなんだろ森に住む魔女は!お前らをけしかけたのはこいつで間違いないんだよな!?」


 するとトロールは、すぃーっと歯の隙間から息を吸って考えるような仕草をした。やめろ。ここで実は間違ってましたなんて言ったらまじでぶっ殺すぞ。


「すいやせん、兄貴。よくよく思い出すと、俺が話したのはこんなちっこい子供じゃなかったですぜ……」


 トロールの言葉を聞いた村人達は俺の身体を浮かせるとそのままどこかへ俺を連れ去ろうとする。


「ちょっと頭冷やそうか。なぁ、マサヨシ」


「俺は至って冷静だよ。だから諸悪の根源たるあのトロールをぶっ殺すんだ」


 いつのまにか近くにいたお袋が泣いている。


「殺すだなんて……そんな言葉を言うような子に、あたしは育ててしまったんだね……?」


「違う。違うんだ。あのトロールが言ったんだ。あいつが魔女だって。あいつがけしかけたんだって。俺はただ、村を助けようとしただけで……俺は悪くねぇ、俺は悪くねぇっ!」


 そんな心の叫びも虚しく、俺は村の唯一の名所である忘却の滝に投げ入れられた。


 あーもーやってらんね。

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