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第十二話 魔女裁判

 村に戻ると、親父が出迎えてくれた。


「おぉマサヨシ。戻ったか」


「ただいま」


 親父は俺の後ろに着いてくるトロールがまだ慣れないようでちょっとおっかなびっくりしていたが、その肩に担いでいたものを見て目を丸くする。


「どうしたんだ、その女の子は」


「森の魔女だ。こいつがゴブリン達をけしかけて村の畑を襲わせていたらしい」


 俺の言葉にトロールが頷く。


「なんと……まさかこんな女の子が……」


 目配せすると、トロールが魔女を地面に横たえる。


 あらかじめ用意していた水をその顔にぶちまけてやると、魔女は驚いて目を覚ました。


「こ、ここはどこ!?あたし……のような可憐で可愛くて気前のいい超絶美少女……は誰!?」


 もう一つ用意していた水を再び頭からかぶせてやった。


「ぶへぇっ!ちょっと!なにすんだ!」


「それはこっちのセリフだこの野郎。散々畑を荒しまわりやがって」


 俺たちが今いるのはカブの村の中心。


 物珍しい魔女という珍客の登場に、少ない人数の村人はあれよあれよという間に集まってくる。さすが田舎だぜ。


 人の視線にさらされることに慣れていないのか、魔女は明かにキョドっていた。ひきこもりか。


「あ、あなたたち、よってたかってあたしをどうするつもり!?言っとくけど、あたしは何も悪いことなんてしてないんだから!」


「まだ言うかこの……」


 凄むトロールを手で制すると、魔女を見下ろす。


「素直にみんなに頭を下げ、もう二度とこの村に手を出さないと誓うなら解放する。意固地に拒むと言うのなら、それ相応の報いを受けてもらう」


 作物はこの村にとっての生命線だ。ゴブリン達によって被った被害は決して少なくない。


 死者こそ出てはいないが、生活が苦しくなったのは疑いようがなかった。


「知らない!あたしは悪くない!」


「そうか」


 そう言うと、俺は脇に隠してあった魔女の杖を取り出す。


「あ、あたしの杖!」


 それを見た魔女が声を上げる。そしてその先端についているものをみてさらに大きな声を上げた。


「いやああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 魔女の見つめる先には、宝玉に深々と突き刺さったゴンボーウがあった。


 その姿はもう槍ではなくなっており、所々から毛が生えた新鮮なゴンボーウに戻っている。


「な、なにそれ……!?あたしの杖に一体何が突き刺さって……!?」


「ゴンボーウだ。毛の生えた、な」


「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 まぁ気持ちはわからないでもない。


 自分の愛用してきたものに突然ゴンボーウが生えてたら俺だって嫌だ。しかも毛生えてるし。


 もはやそれ自体が罰とも言えそうなほどにショックを受けたらしい魔女だったが、それだけで許すわけにはいかない。


「人伝に聞いたことがある。魔女は、その生涯において一本の杖しか使うことができないと。つまり、この杖が使い物にならなくなれば、お前はもう二度と杖を使った魔法が使えなくなると言うわけだ」


 この言葉が真実かどうかは、今の魔女の反応を見ればわかる。


 だから俺は、杖の宝玉から伸びたゴンボーウを掴み、グリグリと引き抜こうとする。


 ピシ、パキとガラスが擦れる嫌な音が聞こえ始めた。


「今、このゴンボーウはこの杖にとっての生命線のようなものだ。こいつが抜けたら、きっと宝玉は粉々になって砕け散るんだろうなぁ……。そしたらこの杖はもう使い物にならなくなるんだろうなぁ……」


「あ、あぁ、あああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 魔女の悲痛な叫び声が村に響いた。


 なんだろう、散々馬鹿にされてきたからかどこかすっとした気持ちになった。


「あ、兄貴……」


「マサヨシ……」


 ふと周りを見ると、村のみんなはなぜか魔女ではなく俺を、一歩引いてどこか哀しそうな瞳で見ていた。


 あれれぇ?おかしいぞぉ?


「もう、いいんじゃないかマサヨシ。この子も十分反省しているようだし、なにもそこまでしなくても……」


「いやでも」


「そうよマサヨシ。私も、ちょっとやりすぎだと思う」


 村一番の知恵者シューターも親父の言葉に賛同する。


「お前はそんなことする奴じゃなかったはずだマサヨシ。昔のお前は、もっと優しかった」


「やめろマサヨシ。人の心を取り戻すんだ」


「マサヨシ……街に出るようになって変わっちまったよな……。昔はもっと……いや、ここで昔の話をしたところで昔のお前が戻ってくるわけでもない、か……。へへ、時の流れってのは残酷だなぁ」


 幼馴染みゲルボウ、隣の家のイリシタ、お向かいさんのタシロが口々に告げる。


 何この空気。


「ちょっと待ってくれみんな。こいつは村の作物を……」


「確かに許せないことかもしれない。でも、人の心を捨ててまで……鬼になってまで罰しなければならないようなことじゃないだろう?」


「いや捨ててないけどね?鬼にもなってないけどね?俺はまだまだ人間としてやっていくつもりだけどね?」


「待ってくれみんな。マサヨシと……息子と話をさせてほしい」


 まるで針の山に触るように恐る恐る俺に語りかける村のみんなを親父が止める。


 なんか見たことある流れですねぇ。


「すまなかったな、マサヨシ」


「いや何が」


「俺はお前に、人としてやっていいことと悪いことの区別を教えてやることができなかった。親として、本当に申し訳ないと思う」


「違うよね?人としてやっちゃいけないことをやってんのはそこの魔女の方だよね?」


「もういい。もういいんだマサヨシ」


「なにがいいの?何をもってしてあんたはいいと仰ってるの?」


「兄貴……!こんな兄貴、俺は見たくなかったですぜぇ……!」


 トロールも、その太い腕で顔を隠しながら肩を震わせている。


 まじでなんなんだよこいつら。

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