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お菓子が突然、美少女になったので仲間にしました。  作者: ワキ毛増毛3000円
第一章 ~狂気の館~
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夕暮れのお茶会

「君がワタちゃんか……」


グッピーは安堵の表情を浮かべた。


「…あなたは…?」


「グッピーだよ、僕はその…マヤの……いとこだったんだ」


「……怖かったろう…辛かったろう…もう大丈夫だからね……」


「うん、だいじょうぶ…」


「ミグせんせい……」


「たすねにきてくれて、ありがとう…」


「…お礼は彼に言うといいさ」


「フカマチだ。フカマチ・ハルト……」


「ありがとう、ハルトさん……」



「……………さて、この化け蜘蛛をどう処理してやるか、だが……」


「燃えるゴミ……では…ありませんよね……」


「その必要はありませんよ」


ハルト右手を掲げると、手の甲に魔方陣のようなものが現れた。


「これより、浄化を始める……」


アトラキアの死骸はグズグスと崩れ始め、塵となって魔方陣へ吸収されていく……。


「…すごい、魔術かこれは…」


グッピーは目の前の状況に目を丸くする。


「まぁ、そのようなもんです」


…俺は魔術は使えない。これは厳密には闇魔術の部類に入るのだろうが、説明するとなるといろいろとめんどくさいからな……。


「こんな本格的なのは初めて見たよ」


「ぼくの叔父はある程度魔術が使えだけど、せいぜいブリキの人形を動かすくらいだったしね」


アトラキアは跡形もなくなって消え去った。


「…」


わたあめは床に散乱した絵本を拾って、それを眺めていた。


「…マヤさんは…」


ポツリと、わたあめが話し出した……


「マヤさんはきっと……さみしかったんだよ……」


「はじめてあったときボクのこと、リーフちゃんっていうこの、うまれかわりだっていってた……」


「マヤさんは、ボクにおかしやくだものをくれた。とてもおいしくて、うれしかった……」


「でもね、マヤさん、だんだんちがうひとみたいになっていったの……」


「えがおがね……へんになってきたの……。まるで、だれかにうごかされてるみたいに……」


「そしたら、とってもこわくなって……」


おそらく、マヤさんが彼女に会ったときには、寄生がそこまで侵食していなかったのだろう。


いつマヤさんは感染したのだろうか……。


そんなことは今になっては知るよしもない。











「悪いな、あのリビングも綺麗にしてくれて」


「構いませんよ」


内臓がぶちまけられたリビングは浄化され、本来の姿を取り戻した。


「……この椅子は、俺がマヤに結婚祝いで買ってやったんだ……」グッピーは椅子を正しい位置に戻した。


それは俺がマヤに勧められて座った椅子であった。


……これだけは比較的きれいだったな。


「これで……ようやく、終わった…」


「……マヤ……」


「むこうで二人に会えたかな……」









「そういえば、家はどこだい?お母さんとお父さんはきっと心配しているよ……」


わたあめはキョトンとしていた。


「おとうさん?おかあさん?」


「……グッピーさん、彼女はその……お菓子妖精です」


「……えっ!!」グッピーとミグは同じリアクションをした。


「お…お菓子妖精って、あの……絵本とか童話に出てきた、あの妖精!?」


グッピーはびっくり仰天。


「なんだか…不思議な子だとは思いましたが……」


「心臓の音は人間のそれでしたよ。顔はかなり整っていて、皮膚なんかはちょっと不自然なほど綺麗でしたが。いやはや、まさか…」


「ってことは内臓もお菓子でできているのか!血の代わりはなんだろう!もしかして、砂糖水だとか!?」


ミグの研究心に火をつけてしまった。


「ミグさん。勢い余って解剖なんかしないでくださいよ…」


「そう会えるものか!」


やれやれ。


「それで、ワタちゃん、君はお菓子妖精なんだろう?これからどうするんだい?」


「わたしは……」


わたあめは、途方にくれていた。


唯一の親を失った彼女は、どこにいくのだろう……


彼女……お菓子妖精の寿命は非常に短い……。


ソーダの炭酸のように、あっという間に消えてしまうのだ。


お菓子妖精がまつわる童話にこんな話がある……。


真夜中、売れ行きの少ない清潔なお菓子屋に、忘れ物を取りに来た店主が、彼女たちと遭遇した。


作りおきしていたクッキーやチョコレートの山のいくつかが、独りでに動き始め、女の子の姿となった。


店主はお菓子に霊が憑依したのだと考え、肝を冷やし、物陰から彼女たちを観察していた。


彼女たちは、売れ残ったクッキーやチョコレートを美味しそうに食べ始め、歌ったり、躍りながら、消えてしまった。


悪霊の類いではないと判断した店主が、物陰から出るも、すでに彼女たちの姿はなかった……


売れ残りの山がほとんどなくなっており、残されたお菓子は僅か。


残されたお菓子の数は、その少女たちの数と一致していた。


そのお菓子をさりげなく口に運ぶと、自分が作ったものとは考えられないくらい美味しかったという……。


その後どういうわけか彼の店は繁盛し、子宝にも恵まれ、幸せに暮らしたといわれている。


お菓子を食べる不思議な妖精。


いつの間にか現れ、すぐに消える妖精。


……そうだ。本来はそういう生き物なのだ。


わたあめ、そしてクリームは例外中の例外なのだ。


彼女らは他の娘より少し生き過ぎた……。


そうなると、彼女たちの心にある感情が生まれる。


それは、自分の出自に対しての孤独感。


本来は、すぐに消える命……。


クリームは明るくふるまっているが、同じような考えに違いないだろう……。


あいつには、少しひどいことをしてしまった…


「ワタちゃん、君に紹介したい子がいる…」


彼女は、心なしか悲しそうなうわめづかいで俺を見てきた。


「その子も君と同じお菓子妖精だ。きっと仲良くなれると思う」


「……わたしとおなじ……」


「あぁ」


「……」


「わたし……そのこにあいたい」


「君が来てくれれば、きっとその子も喜ぶ」


「……でも、童話の中では、お菓子妖精は外で生きていけないはずですよね? すぐ虫に食われてしまって死んでしまうとか……」


「なんか…だいじょうぶなきがする……」


「ミグさん……僕の魔術は汚いものを吸収して、綺麗にする力です。彼女の汚れもこいつでなんとかなります」


「君は妖精に好かれやすそうだね(笑)」


「ハンターさん、ありがとう。マヤを救ってくれて……」


グッピーはそう言いながら、懐から封筒を取り出す。


「受け取ってくれ、報酬だ」


「どうも。グッピーさん」


封筒にはある程度の厚みがあった。


「……」


……俺は、金は最低限生活できる位あれぱそれでいいと思っている……。


金で買えないものなんて、たくさんあるんだからな。


俺がほしいのはただ一つ。


闇蟲がその身に宿す、混沌の魂。


これではまだ……足りない。


闇蟲を狩って、まだまだ集めないといけない。


また、“あいつ”に会うために……。


「グッピーさん…ありがとう……」


「これ、あげる」わたあめの手にはふわふわのわたあめが乗せられていた。


「あ、ありがとうな……ワタちゃん」グッピーはそういって、わたあめを口に運んだ。


「……あぁ、おいしい。優しい味だ。」


「あ、ありがと……」


誉められなれてないような感じで、顔をうつむける。


「ミグせんせいも、あげる」


「す、すごい! 体から分離するとお菓子になるのか!?」


「すごいね、本当にお菓子の妖精だね」


グッピーとミグはまじまじとわたあめを見ている。


「あまいものは……げんきがでるよ…」











地平線に今にも沈みそうな夕陽が見える。


「すこし、長居しちまったな……」


「ハルトさん。ボクすこし……おなかがすいたよ」


「あぁ、そうだな。いい店を知ってる」


「……あの…」


「? 何だ?」


「……なかよくできるかな……? そのこと……」


「……あぁ、きっと大丈夫だ」


すると、わたあめが手を伸ばしてきた。


「……おてて、にぎって……」


俺は何も言わずに、その手を握った。










「おいしかったねーまたこようね!」


「よし!いっぱいくうべ!」


「ミアはお父さんのほうがすきー。だってケーキいっぱい買ってくれるもん」


「ははは、ありがとうミア。お母さんには内緒だぞ」


楽しそうな会話。


幸せそうに帰っていく、家族連れやカップル達……。


客が入れ替わり立ち替わり訪れるこの店に、開店してからずっと居座っている少女がいた。


そこは、4人座りのテーブル席。かわいらしい一人の少女が占領していた。


「ねぇ、あの席の娘、一人できたのかしら?」


「それにしてはケーキの量が多すぎるな。親御さんはトイレにでもいってるんだろう」


テーブルの上は大量のケーキ。もちろん、少女一人で食べきれる量ではないが、ケーキに興奮したクリームが、勢い余って取りすぎてしまったのだ。


「ちょっと……とりすぎちゃった」


大量のケーキを食べれて満足そうだったが、心なしか悲しそうな顔をしていた。


「お嬢ちゃん。わりぃけどもう閉店時間だぜ」


この店の店主である。


「……わかったわ。でも、もうすこしまっててほしいの…」


「親御さんが来るのかい?」


「……」


「その残ったケーキ、家にもって帰るかい?」


「うん。」


店主はケーキを入れる容器を取りに行った。


「おそいな……」


「ハルトのぶんもちゃんと、とっておいたのに……」


するとどこからともなく現れたハエが、手のつけていないチョコレートケーキに止まってしまった。


「あっ、だめっ」 クリームは急いで払い除ける。


「……」


「……ハルト…」


「…わたしのこと、きらいだったのかな…」


「きっと…どこかへいっちゃったんだろな」


チリン!チリン!


もうすでに店じまい。店主は従業員を帰らせ、一人残っていた。


もう誰かがこの店に来ることはない……。


誰だろうか?


「あー、お客さん?店じまいって書いてあるだろ」


ケーキのケースを持った店主が出てきた。


「まぁ、かたいこというなって」


聞き覚えのある声。


「お客さん、こまりますねぇ」


「甘いもん食いたい気分なんだ。これで多目に見てくれよ」ハルトは店主に金を握らせた。


「へへっ! 構いませんよ! どこの席がいいですか? おすすめは奥のあの席です。アナサントリアの海がとってもきれいに見えますよ!」


「いや、こっちでいい」


ハルトは少女が座っている席へ歩きだした。


「クリーム。悪かったな。少し遅れた」


「……おそいよ」


クリームはムスッとした顔をハルト向ける。


「…あなたも……ようせいのこ…?」


ハルトの後ろから、恥ずかしそうにクリームと同じくらいのかわいらしい少女が出てきた。


「あっ……あれ……う…うん! そう! そうだよ!」クリームは初めて会った自分の仲間に、驚きを隠せない。


「わたしはクリームよ!よろしくね!」


「……ボクはわたあめ……よろしく……」


「わたあめちゃんね!」


二人はなんだがうれしそうだ。


「ハルト? このこは? どこであったの?」


「囚われの少女。お姫様みてぇなもんだな」


「…」


「よくわかないけど、まぁいっか!」


「さぁ、ふたりとも!みんなでがんばってたべるわよ!」


「おまえ、明らかに取りすぎだろ」


「ハルトといっしょにたべようとおもったの!でも、ぜんぜんかえってこないし……」


「だから、悪かったよ」


「クリームちゃん……ハルトさんのことすきなの……?」


「ふえぇ!? ち、ちがうわ! そ、そんなことないわ! 」


「……クリームちゃん……かわいい…」


「おっ!イケるなこれ!クリームこれ食ったか?」


「あ、それ……」 ハエが止まったチョコレートケーキであった。


「それ?それってなんだよそれって…」


「あはは、なんでもない」


「ケーキ……おいしいな……マヤさんがかってくれたケーキもこれくらいおいしかったな……」


「……」


どうか、彼女を、マヤさんを忘れないでやってくれ。


それだけでも、少しは浮かばれるだろうから……。


「お客さん!サービスだぜ!」


さっきので、すっかり機嫌を良くした店主がスイーツを持ってきた。


「こいつは、俺特製のパンプキンケーキだ! 紅茶とよくあうんだなこれが!」


「おっ。これもいけるな。かぼちゃの甘味が……口の中のに広がって……」


「……」ポロ…。ポロ…。


「おいどうした? クリーム……?」


「え…えへへへへへへへ」


なんでだろ?おかしいな。こんなに……こんなに…

おいしかったかな?


「……よーし」


「もっとたべるわ! あまいものはべつばらよ!」


「お前の場合、別腹が本腹だろ」


「あははは」


「これが……エクレア……おいしい」


もう夕暮れ。仕事を終えた店が次々と閉まっていった。


夕日の金で装飾された海岸沿いのこの町は、まさに眠りにつこうとしているところ。


みな、帰っていく。


自分の帰るばしょへ。


さすらいの妖精たちは今、それを見つけた。

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