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お菓子が突然、美少女になったので仲間にしました。  作者: ワキ毛増毛3000円
第一章 ~狂気の館~
1/7

お菓子な妖精と防腐剤なぼく

よろしくおねがいします。最初の方はグロテスクな表現が多いです。

「ヴオオオオオッンンッ!!ウオオオオオン!!バッウッ!バウッ!!」


アナサントリア。海岸沿いのこの町に犬の絶叫が鳴り響く。


あぁ、もうお昼時。これを聞いた住民たちはそそくさと仕事をやめ、ランチタイムに入る。


犬は時計なのだ。


俺は【フカマチ ハルト】。仕事の依頼でこの町にやってきた。


俺の仕事は【闇蟲】(やっこ)の駆除。


【闇蟲】とは伝説の勇者に殺されバラバラになった魔王の魂の残滓。それが生命力を帯びたもの。


俺はそれを狩る。


しかし、この街はいりくんでいて、分かりにくいな。


腹も減ったし、聞き込みもかねて、近くのアイスクリームの屋台による。


「ソフトクリーム1つ。プレーンで」


「あいよ」おっさんがコーンを手に取り、ソフトクリームの機械のスイッチをいれる。


「ひとつよろしいです?

この街に住んでる【グッピー】という人を知りませんか?」


「グッピー?しらねぇなぁ」


グッピーというのは、今回の仕事の依頼人である。


「おっとっと、余所見しちまった…」ソフトクリームが普通よりも1.5倍の高さになっていた。


「はいよ!サービスだ!」


「どうも」



なんか、ブルブルしてるんだが、このソフトクリーム…


俺の手が震えてる訳じゃないぞ。


「…あなたプレーンがいちばんおすき?」


ん。誰か何か言ったか?


女の子の声が聞こえる…


すると、コーンから上のバニラの部分が射出され、何倍もの大きさになって、女の子の形になりました。


「はじめまして、おにーさん。わたしは【クリーム】よ」


お菓子妖精かよコイツ!


ふわふわした真っ白の髪の毛、まんまるで大きな瞳、白色のワンピースにカボチャぱんつ。身長は140cm位の可愛らしい少女が立っていた。


「あのさ、食べたいんだけど。コーンに戻ってくんない?」


「たべるよりも、わたしをそだててみるというはっそうもひつようだとおもうわ!」


いや、思わねぇだろ。ソフトクリーム育てたくて買うやつがどこにいるんだ。


しょうがねぇな、コーンだけ食うか。


「あ、それちょうだい」コーンすら奪われる俺。


「食うのか?」


「わたしのあいでんてぃてぃーよ」俺からぶんどったコーンを頭に乗せる。


「そうですか」






「グッピー?悪ぃな、わからねぇ」ステーキ屋のオヤジは首を横にふる。


「あぁ、そうだ、ここから5km先の西の十字路に、ワイルズっていう頭のイッてる泥団子屋のオヤジがいてな、あいつなら知ってると思うぜ」


「ワイルズ…どうも、焼き加減はミディアムで」


とにかく、腹を満たそう。


「となりのお嬢ちゃんは?」


「わたしはパフェがいいわ!」クリームは答えた。


「お嬢ちゃん、ここは肉屋ぜ?スウィートゥはないべ」


「だっておにくたべたら、わたしへんなあじになっちゃうわ…」


そういうところ気にするのね。


「くだものはないかしら?くだものならいいわ」


「…んんー…そういやイチゴジャムステーキ作んのに、イチゴが置いてあったなぁ!」


「いちご!それでいいわ!」


しばらくすると、ステーキと牛乳がかけられたイチゴが到着した。


「イチゴの方はいくらです?」


「お嬢ちゃんのかわいさに免じてサービスだぜ」


「わーい!」


「いっちご♪いっちご♪いっちっごぉ♪」


足をパタパタさせて、喜んでいた。


「お行儀が悪いから止めなさいよ。」


お母さんみたいなことを言う俺。


まったく、面倒なやつにつかれちまったなぁ。


………でも、こんな屈託のない笑顔見たのは何年ぶりだろうか…。


「どうしたの?じっとみて。デザートはまだはやいわ」


「…もうお前は食わねぇよ」


「そうね。もっとおいしくなってから、たべてほしいわね」


「自分の味を気にするのはそういうことかい」


お菓子妖精ってのは、自分の味を気にするらしい。だから、美味しい果物やスイーツを食べようとするのだ。色々食べると味の質が上がるのだ。


そんな彼女らにとって一番の喜びは、一番美味しくなった自分を幸せに食べてもらえることだ。


だが、彼女らはお菓子なので当然デリケートだ。汚いところにいるとすぐに死んでしまう、短命な生き物だ。そこまでたどり着く娘がどれだけいるやら……


こんな話がある。


アーファスという国の王様【ペッシ】が彼女らを大層気に入ったそうな。


ペッシは各国から集めたスイーツや果物を彼女らに与え、育て上げた。


ペッシが彼女らを飼いはじめてから、潔癖症になったのも面白い話だ。


このアナサントリアでも、潔癖症っぽいやつを、ペッシおじさんと呼ぶことがある。


潔癖症になるのも、わかる。


「いちごとってもおいしかったわ、ありがとう、おにーさん」


「お礼はあのオヤジに言うべきだな」


「…さて、十字路へ、ワイルズだっけか」俺は、少し長いランチタイムを終えた。








「みてみて、あのたいやきおいしそうじゃない?」


「ワッフルもすてがたいわ」


「おにーさん、よこみて!あれよ!クレープやさん!」


ちっこい少女が、歩く俺の周りを縦横無尽に駆け巡る。


「……」


「…うーん、何でついて来るんでしょうか」


「…おにーさん、おててつないで……」クリームが俺を見ながら、袖を引っ張る。


「…」


ぷにゅ


ひんやりと冷たくて、ふわふわやわらかい…


夏とかには便利だなこれ。


「え…えへへ…やっぱり…」クリームはにんまりと笑いだした。


「…あんしんする……なんだろ、ふしぎだね…」


「……」


これは、彼女が俺を好きだとか、そういうはなしではない。


お菓子妖精の、本能的なものに近い。


彼女らは、デリケートなゆえ、無意識的に不浄を避ける性質がある。


それは俺の特殊な体質のせいだろう。


そうそれは特殊な…


特殊な……


「……」




「………………ッ!!」


「…?おにー…さん……?」


クリームはなにか、異様な空気を感じ取った。


「来やがったか…」


「……!?」


「…おまえ…ここでお別れだ…」


「お菓子屋にでもいきな、外にいるよりはましだぜ」


「…まって!おにーさん!」 少女が言い終わる頃には、もう彼の姿はなかった…






「………そこでな、わしはアヒルと交尾したんじゃ…」二人のお爺さんが仲良く話していた。


「…セレム町のオイナリなんかもっとすごいんじゃよ、例えば……わぶっっ!!」


凄まじい旋風。


前を見ると、目にも止まらぬ速さで、男が疾走していた。


「な、な、なんじゃあああ、ありゃあああ」


その男はハルト。いつの間にかその背中には、刃渡り100cmを超えるであろう剣を携えていた。


「デカいな、久しぶりに大物だぜ」


気配を追って、気づけば町外れにいた。


気配の場所に立ち止まり、辺りを見回す。


下か…!



近くのマンホールをこじ開け、下水道に入る。


やけに深い下水道。


階段を下りるにつれ、地下の冷たい空気を感じる。


腐臭。ヘドロの感触が足を襲う。


「あああああ……」


ゴキッ…パキッ…グチャクチャ……。


……近い!


肉を咀嚼し、骨を噛み砕く音が下水道を支配していた。


「よぉ、ずいぶんと育ってるじゃねぇかよ」


体長は3m程であろう、巨大なだんごむしのような生き物が人を喰らっていた。その傍らには、上半身がない死体が1つ。少し遅い、ランチタイム。


無機質な目がこちらに向き、気づいた様子。


「頭から食うのが好きだよな、おまえら


たんごむしは食べるのを中断して宙に羽ばたいた。


こいつは〈コンゴル〉。ヘドロを好む闇蟲の一種。だんごむしのような外見に加え、甲殻の上半部分が、横に開き、羽として機能している。


空を飛べる機動力と堅牢な甲殻による防御力相まって、闇蟲の中でも脅威的な存在だ。


しかし、最も脅威なのは次に来るであろう攻撃。


コンゴルはこちらに向けて滑空し、助走をつけたあと、はねを折り畳み、体を縮め、完全な球体となった。


「ボウリングは……苦手だな…」






「おにーさーん!どこー!?」


「たしかこっちのほうこうのはず……」


走っていると、腰を抜かしたおじいさんがふたり。


「だいじょーぶ?」おじいさんに手を差し伸べた。

「あぁ、悪いねお嬢ちゃん」


「さがしてるひとがいるの。とってもはやいの」


「とってもはやい?まさか、あの風のような速さの青年のことかな?今しがた、むこうへおもいっきり走っていたったよ」おじいさんが町外れの方向へ指を指した。


「むこうへ?わかったわ、ありがとね」


女の子が小さな体をおもいっきり動かして、走った行く様を二人は眺めていた。


「……あの子、なんかソフトクリームみたいだったのう」


「……うむ、少し浮き世離れしとる」


「………お菓子妖精…いや、まさかな…」








狭い地下空間、まるで3dビリヤードなるものが行われていた。


ガン……ガッガッガッ……ガガンッ!!


速度を落とさず、一定のリズムで、下水道を破壊しながら奏でられる、死のパーカッション。


その楽曲のフィナーレは男の断末魔によって締め括られるであろう。


「ぐふ、げほ」


大砲のような連撃を剣でガードするが、その衝撃でよろめくか、吹っ飛ばされる


体勢を立て直している間にも、死角から攻撃してくる。


バチュウウウンンンンンッッ!


すれ違い様にようやく、攻撃できたが、固い甲殻と回転力のせいで、まともに刃が入らない。


くそ、閉鎖空間はまずかった。奴の独壇場だ。地の利を活かしてやがるぜ!


すると……


「おにーさん!そこなの!?」上のマンホールの穴から声が聞こえた。


「くそっ、あいつまだついて来たのか」


「そのこえは!おにーさんね!」


「おい!ここにはいるんじゃないぞ!この中には…」


パシャアッ


なにかが落ちてきました。


「………アホ……」




ギャルルルルルルルルルルルルルル!!


「……余所見すんなってか?」


ガキィィィィンンン!!


バックステップで直撃は回避する。


「ハァハァ、ジリ貧だぜ、体力が……」


「うわああああん!おようふくがぁぁぁぁ!

からだがぁぁぁぁ!……………………ん?……これチョコかしら?

………いやチョコじゃないわ!ドロだわ!うわああああん!おにいさあああん!」ヘドロまみれになるクリーム。


「ありゃあもう助からねぇな」ガキィィィンン


「………おにーさん…。さようなら。いまはドロあじでも、こころはプレーンよ………」ガクッ










(…いちご、おいかったよ、ありがと、おにーさん!)


(…なんかね……とっても…あんしんするの……ふしぎだね…)


……。

…………。

………クソッ……。


俺はあえて、空中へ飛んだ。それをめがけコンゴルが地面に平行して突進してくる。


あぁ、これがいい、この角度がいい!


直撃の瞬間、体を捻り、間一髪でかわす。


絶好の攻撃チャンスを避けられたコンゴルは壁に接触せず、反対方向へ飛んでいった。


これで少し時間を稼げるぜ!


「うぐっ、おにーさ……」クリームはヘドロと混じりあってしまっていた。


「……たくっ…」クリームの手を握った。


その手の甲には紫色に光る魔方陣が刻まれていた……。


すると、クリームの体に混じったヘドロがハルトの魔方陣に吸い込まれていくではないか。


「……!!あれっ!?……あれっ!?……」クリームの汚れは完全に取り除かれた。


そうだ。これが俺の特殊な体質だ。


【ダーク・レセプト】


この魔方陣はあらゆる汚れや穢れを自動で吸い取る。


この力は俺の近くの空間にも影響を及ぼす。


お菓子であるクリームが、屋外にいて、虫に集られず、綺麗でいられるのも、これが理由だ。


魔方陣の右手で直接触れば、一気に対象を浄化する。


クリームが俺の近くにいて、安心できるのも、無意識にこの力を感じているからなのだ。


「うわああああん!おにいさあああん!」


クリームが俺に抱きついてくる。


「ったく、アホだろお前…」


「うわああああん!ごめんなさいいいいい!」


「いいから階段を使って早く逃げろ!もうやつが来るはずだ!」さすがに、二人一緒に脱出する時間はない……!


「そのまえにおにーさん!これを!」


「なんだ!?もうお前のお遊びに付き合ってる時間はないんだ!」奴の気配が強くなる…!


「いいから!これをたべて!」


……手にソフトクリームが乗っていた。


「ふざけてる場合じゃ…モゴッ」無理矢理食わされた。


「あまいものはげんきがでるわ!」そういうと、急いで階段を上がっていった…。






「モグムグ……」アナサントリアの美味しいソフトクリーム120円。プレーン。今はちょっぴりイチゴ味……。


ギャギャギャギャギャギャ!!!


「さて、もう一度、隙があれば…!」


ガギィィ!!


「ぐぅっ…!」体すれすれに弾く。


こいつ俺の動きに慣れてきやがったな…!学習してやがる!


その時、奇妙なことが起こった。


「グオオオアオオンンッ!!」コンゴルが異変に気付く。


「……………?」


……氷が…!俺が切りつけた場所から…凍っている…!


まさか…!? 剣に目をやると………


剣から冷気の様なものが流れ出ているではないか!


いや、正確には剣じゃない!俺の手から伝って冷気が出ているのだ……!


俺は氷属性の魔法なんか使えない…!ましてや、魔法自体使えないのだ。


これはまさか………!


俺はふと思い出した。


お菓子妖精の能力。【継承】の力。


食べてくれた相手に、奇跡の力を付与する。


クリームの場合は氷属性の力を与えてくれた。


ギャオオオオオオオオ!!


奴は猛スピードで突進してくる。


いいぜ、氷付けにしてやるよ。


すれ違いざまに、一発…二発…三発…。ガギィッ!!


切りつけるたびに奴の動きは鈍くなる…。


ついに球状を維持できなくなり、ヘドロの地面に落下した。


羽の稼働部分も氷が侵食し、飛ぶことすらままならなくなる。


もう奴はまないたの上の鯉だぜ!!


「やった!、いまのうちににげて!」クリームがマンホールから顔を出す。


「ダメだ。こいつはすぐに動き出す。完全にトドメをささねばならん。」


「でも、あなたのけんじゃあ…」


「……ところが、そうでもねぇのさ…こいつが動かねぇなら、この剣の本来の使い方ができる」


俺は、こいつらの固い皮膚を切り裂く力はない。


だが、刺すなら。線の攻撃ではなく、点の攻撃なら。


俺の剣は刺突に適している。


俺は飛び上がり、やつに向かって、飛び降りた。


ガッッッ


弾かれはしなかったが、刃先がめり込んだだけだった。


「あぁ、やっぱりだめよ」


「よし、これくらいで十分――――」


ゴバアアアアアアアアアアアアアンンンンッッッ!!!!


コンゴルは奇妙なことに内側から破壊された。


「えっ…なに?…」


煙の出ている剣先……それはまるで銃口のよう…


内臓炙り。


不自然に厚みのあるその剣は、銃口が搭載されている。


剣先とともに銃口が相手の体内に入り込み、トリガーを引くことで焼夷弾を発射する。


名前の通り、内臓を直接炙る。


「さてと…浄化の時間だ」俺は手の魔方陣を死骸に向ける。


キィィィィィィィ……。


グズグズとその死体は塵となり、魔方陣に吸い込まれていった…。










「よっこらせっ」下水道から上がった。


「すごい、ぜんぜんよごれてないわ…」あの戦いが嘘のように、汚れが消えていた。


「どこで……かったのかしら?」


「売りもんじゃねぇよ」


さて、ずいぶん道草を食っちまった。グッピーを探さねばな。まずはワイルズか…。


「もう懲りたろ?そういうことだぜ、俺についてくるのはよ。」


「ずっとこうだったの?ずっと?…ひとりでたたかってたの?」クリームが尋ねる。


「それがどうしたよ?、まぁ、とにかくおまえは邪魔だぜ。」


「じゃまじゃないわ、わたしがいたからかてたのよ♪」ドヤァッ……


「俺一人でもなんとかなったぜ」


「ならないわ」


「なる」


「ならない」


「なる」



「……ケーキ屋にでもいって素性を明かしてこいよ。スイーツ業界の人間からしたら

お前らは伝説の存在みてーなもんだしな。さぞ、丁重に扱ってもらえるだろうぜ」


「おそとにいきたいわ、だってたのしいもん。」


「あなたといっしょにいけば、おいしいものたべれるからね」


「……はぁ…そうですかい」


まぁ、いいか。やつらの寄せ餌に使えるだろうしな。


こいつがやつらを引き寄せて、俺がやつらを喰らう。


俺はもっと、もっと不浄を集めきゃいけない。


「ところで、おにーさん」


「何だ?」


「わたしは……おいしかったかしら?」


「…………あぁ、美味しかったよ」俺はそっけなく言った。


「え、えへへ……」彼女の頬がほんのり赤くなる。


「つぎからはもっと、もっーと、おいしくなるわよ!」






「ヴォォォォオン!!バウッ!バウッ!」


アナサントリアに昼の終わりを告げる、犬の絶叫が鳴り響いた。

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