第一章 Ⅰ 日常の崩壊
俺はどこにでもいる普通の高校生だった。成績は中の上くらいで,身長は低くもなく高くもない。
顔も悪いわけではない。少しぐらいなら告白されたことだってあった。
得意なことといえば高校三年間を陸上競技に捧げたため、県内では負けなしだったくらいに脚が速い。
あとは、実家が剣道場であったため幼少期から竹刀を振ってきたので剣の腕にも自信はあった。高校で剣道をしなかった理由は、さわやかなスポーツに憧れていたからだ。
高校は実家から離れた寮のある高校を選んだため、親の管理から離れ自由の身であったのだ。
そんな俺も部活を引退し,志望校を決め毎日毎日代わり映えのしない日々を勉強に追われ過ごしていた。
今日も朝から気がめいるほど蝉が煩く鳴いていた。寮から学校までは少し距離があり歩いて学校へ向かっていると
「おはよう大河」
そういいながら思いっきり俺の背中をはたいてくる女子がいた。こいつは部活のマネージャーだった風花である。
風花は誰にでも優しく背は女子の中では高い方で顔が可愛かった。風花とは三年間クラスも同じで、不思議とか気が合った。こうしてよく一緒に学校に行ったりするぐらいには仲が良かった。
正直言うと俺は風花が好きだった。しかし、仲良くなりすぎたために今更告白なんてできない。卒業式にチャンスがあれば告白しようかなと考えることもあった。
いつものように風花となんてことない会話をしながら長い坂を上りその先の学校を目指した。
教室につくといつものようにみんながいた。俺が荷物を置き席に座ると
「大河ちゃんおっはよー。今日も朝からラブラブデートしてきたのかい」
そんな風に声をかけてきたのは瞬だった。瞬は隣のクラスでいわゆるパリぴみたいな雰囲気のやつである。短髪で眼鏡をかけていていつもクラスのムードメーカー的存在だった。
正直俺と性格はあまり似てはいない。俺と俊がなぜ仲が良かったかというと、部活が同じでリレーでバトンをつなぎ合う関係だったので学校の中で一番仲のいい友達だった。
「うるせーな。そんなんじゃねえって言ってるだろ」
「照れるなって。お前と風花の仲はもうみんな知ったんだから今更隠すなって。」
「お前なぁ…
こっちは1限から数学の小テストなんだよ。
勉強するから邪魔すんな。」
「あちゃー。 そりゃ大変だ。
じゃあ世界史の教科書だけ貸していただければ邪魔者は退散いたしますよっ」
「それが目当てだったか。ほらよ」
「あざーす。さすが大河ちゃん恩に着ります」
そう言って瞬はクラスを後にした。
まったく嵐のような奴だ。
それから俺は時間のある限り勉強をしていた。
最後の悪あがきってやつだ。
そうしているうちに予鈴がなり小テストが始まった。
一限は小テストといいつつ1時間のテストだったのでテストを受けて授業は終わった。
テストはというと
出来はイマイチだった。やはり、直前に少し勉強しただけでは無意味である。
継続は力なりという言葉を思い出した。
ここまではいつも通りの日常だった。
そして、事件は2限の国語の時間に起きた。
退屈な授業の中、俺はぼんやり外を眺めていた。
その時、急に視界が大きく歪んだ。
轟音と悲鳴がクラス中に響き渡った。
これまで体験したことがないくらいでかい地震だった。
「お前ら、すぐに机の下に隠れろ」
先生が大きな声で叫んだ。
俺はとっさに机の下に身を隠していた。
ものすごい長い間揺れていたように感じたが、たぶん1分くらいの出来事だった。
揺れが収まってから
「お前ら無事か。誰か怪我したやつはいないか」
と先生が言った。幸い怪我人はいないようだった。
俺は机の下から這い上がり辺りを見渡した。
あたりは生徒の荷物や本などが床に散乱していた。
俺は校庭に目をやり驚愕した。
校庭には底が見えないくらい深く大きな裂け目ができていた。
そして、まだみんなが現状を飲み込めてないところに本当の惨劇が訪れた。
パリーンとガラスの割れる音と共に丸まった何かが教室に転がってきた。
最初はボールのように見えたが、それは二本足で立ち上がり生き物だということがわかった。
「おいなんだこれ。ここは三階だぞ」
誰かが叫んだ。
教室に入ってきたそれは子供くらいの大きさの見たこともない緑色の化け物だった。長い爪と耳を持ち黄色い大きな瞳を持った化け物は次々に教室に入ってきた。
次の瞬間近くにいた生徒に緑色の化け物が飛びかかった。そして、その生徒の喉元を鋭い爪で引き裂いた。
床や壁に鮮やかな血しぶきが飛び散った。
悲鳴と共に誰かが
「ゴブリンだあああああ」
と叫んだ。
ファンタジーアニメやRPGで見るような空想上の生き物が今目の前に存在している。
巨大地震、謎の生物、クラスメートの死
クラスはパニック状態だった。
ヤバイ、ヤバイ、さすがにこれはやばい
俺の動物的本能がいっている
逃げなければ死ぬと
俺は
「風花!!」
と叫び風花を探した。
風花は教室の壁際で腰を抜かし床に座り込んでいた。
俺は風花の元にかけより
「立て風花。逃げろ」
そう言って風花の重い手を引っ張り教室の外へ跳び出した。
「とにかく走れ、走るんだ」
俺がそういうと
「タイガ。さっきの何。なんなのあいつ。ねぇ、何あれ」
風花は状況が理解出来ずパニック状態だった。
もちろん俺も状況なんてとうてい理解できるはずはなかった。しかし、本能で逃げなければやばいということだけは分かっていた。
「いいから走れ。ここにいたらやばい気がする」
そう言って俺と風花は廊下を走った。
こうして俺の平穏な日常は地獄のファンタジー世界へと変貌を遂げた。