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68話 自分が大嫌い

68話です!

前回67話の『2』の場面が途中で切れていました。

すいません。

その場面は既に修正済みです。

 自分が大嫌い



「君が演じているのは、一昔前の自分じゃなくて今の自分じゃないのか?」


 僕の言葉に、彼女は図星をつかれたかのような表情を見せた。

 多分、彼女自身がそれに気付いたのだろう。


「別に……。私が演じていたのは、一昔前の私……。だ、だから今の私が本当の私……」


 彼女は口ではそう言うが、表情は曇っていた。


「認めたらどう?分かってるんでしょ?君自身」

「何を認めればいいの?」

「今の自分が演技だっていうことを」

「だから、違うって!」


 彼女の声は荒れていた。

 彼女の拳は、強く握られていた。


「じゃあさ……。今の人格は中学時代の君。そうなった理由は、復讐。なら、今は復讐でもないのになんでこの人格でいるの?」

「そ、それは……」

「ふられた自分を認めたくなかったから、自分が傷つくのが嫌だったからなんでしょ?」


 そう。今の彼女は、ふられた自分を認めたくないから出来た自分。

『私の本性はこれだから、自分はふられたわけじゃない』と、自分が傷付くのを避けたのだ。

 その結果、中学時代の彼女の人格。

 それを演じていたのだ。


 彼女は目線を落とした。


「違う。私は剣也君に好かれるために、演じていたの……」


 彼女の口調は近頃聞くような荒いものではなく、ふられる前のもの。

 この口調になったのは、恐らく無自覚。

 そこから考えて今の彼女は演技であるというのは間違いなかった。


「皆田さん……。醜い言い訳はやめないか?」


 優しく、静かにそう言った。


「言い訳なんかじゃ……。っ!」


 彼女の心は恐らくズタズタでボロボロだ。

 必死に自分が傷つかないようにしてきたつもりだろうが、おそらく余計に傷ついているのだろう。


 『嘘をつくと、嘘を隠すためにさらなる嘘をつく』


 そんなイタチごっこのような限りのないことを彼女はしていた。

『ふられる前の私は演じていた』ということにするために、中学時代の自分を演じて。

 そして醜い嘘で、演じていることが事実であるにも関わらず否定して。

 自分が傷つきたくないというその理由だけで、彼女は何度も何度も嘘や演技を重ねてきた。


 そんなことをしていれば必ずボロも出る。

 さっきの口調の変化もその1つ。


 そしてボロが出るということは、彼女自身が弱っている証拠。

 僕は、そんな彼女を優しく抱いた。

 心の傷口を塞ぐように優しく、優しく。


「苦しんでいるのに、周りに助けを求めずに自分で抱え込んで……。もう演じるのも嘘をつくのもやめにしないか?」


 彼女はその言葉を聞いて泣いていた。


「やっぱり、辛い思いしてたじゃないか」


 彼女は、嗚咽を漏らす。

 そして涙声でこう話す。


「あなたが言っていた事は全部本当のこと……。私は私を守るために嘘をついたり、演じたりした……。そのせいで尚更自分を苦しめてた……。そんな醜いことをしていた私が大嫌い」

「僕も岸川さんにふられたから、その気持ちが分かるよ……」


 岸川さんにふられて、僕は蔭山君に嫉妬して……。

 その結果、みんなの信頼を失ってその原因となった彼を嫌った。

 別に蔭山君が悪い訳でもないのに、勝手に嫌いになった。

 僕自身も最近気付いた。

 本当は、自分が傷つかないようにしていただけだということに。


「でも、やっぱりそんな自分でも認めないと駄目だと思う。そうしないと、次に進めないからさ」

「うん……」


 僕は体勢を戻した。

 そして、僕は気になっていたことを彼女に質問する。


「1つ聞いていい?」

「何?」

「君が中学時代にあの人格になった原因って人間不信だったよね?今も人を信じられない?」

「それはないよ……。確かに人間不信だったけど、高校に来てから少しずつ人を信じられるようになった。多分、剣也君のおかげだと思う。優しい彼なら信頼出来る。そう思えたから、次第に人を信頼できるようになって。だから西島君のことも信じているよ」


 自分では分からなかったけど、多分赤面していたんだと思う。


「ちょっ、顔赤くなってるよ!私まで恥ずかしくなってくる……」


 そういった彼女の頬は赤く染まっていた。


「蔭山君って、いい人だよね」

「うん」

「どんな人でも同じように優しく接して……。それが出来るって本当にすごいことだと思う」


 彼は無意識でやっているのかもしれない。

 でも彼はどんな人にでも平等に優しい。

 そんな所を僕は尊敬している。


 僕たちは暗くなり始めた教室から出るべく、帰る支度をする。

 そして、僕が鞄を持った時に彼女は再び話し始めた。


「ごめんね、西島君……」

「ん?」


 僕は彼女の元へと近づく。

 すると彼女は再び視線を落とした。


「いろんな人に迷惑かけちゃったみたいで……」

「大丈夫だよ」

「だから私、演じるのやめるね!これからもよろしく!西島君」

「こちらこそよろしく!皆田さん」


 そう言って僕たちは握手を交わした。

 そしてその後、僕たちはそれぞれ帰宅の途についた。




 何?この気持ち……。

 下校の途中、私は変な気分になっていた。

 浮いているような、フワフワした気持ち。

 でもそれは不快なものではなく、幸せなもののような気がした。


 ようやく、苦しみから解放された。

 自分で自分を苦しめていた。

 それが解けて私は約1ヶ月ぶりの解放感に浸っていた。


 私は、舞い上がる気持ちにのって家へと帰った。



続きます!

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