64話 ゆっくりと時間をかけて
64話です!
ゆっくりと時間をかけて
1
静まり返った教室。ここにいるのは、3人だけだ。
今は放課後。
日はかなり傾き、次第に暗くなり始める頃だ。
「話の続き、お願いしていい?」
俺は白川さんにそう頼んだ。
絵里の過去。
朝に、中学時代の彼女を白川さんに聞いていたのだが、予鈴に阻まれ話が途中になっていた。
彼女は、コクリと頷き話を始めた。
「絵里ちゃんは、周りの人を信じていた。でも裏切られたから、人を信じなくなったんだよ。いわゆる、人間不信……。私とか特定の人物と話すことすらなくなったわ」
「……そうなっても仕方ないか……」
人を心から信じていたのに、裏切られたのだ。
人を信じられなくなってもおかしないだろう。
「変な言い方だけど、それだけで留まれば良かったのに……」
「どういうこと?」
半弥がすかさず、質問を入れる。
「次第に、その人達への復讐を始めたんだよ」
「また手を出そうとしたの?」
半弥の眼差しは至って真剣そのもの。
半弥も俺と同じ、絵里の友達。
救いたいと思うのは必然だろう。
それが友達というものだと思う。
「その人達を嘲笑うようになったんだよ。授業中とかに。些細な間違いに、『馬鹿じゃないの?』とか言ったり……」
「……」
「それが更にエスカレートしちゃって……」
白川さんはこれ以上言いたくなさそうだった。
恐らく、言いたくなくなるほど嫌な内容なのだろう。
だから、この話に終止符を打つ。
「大体分かったよ。俺は、その人格を治す方法は1つだと思う」
裏切られて、人を信じられなくなった。
それが原因で、人を嘲笑うようようになり、そして次第に人を避けるようになった。
だとしたら原因は……。
「人間不信を治すしかない。信じてもらえるように、俺たちが頑張ればいい」
「頑張るって、どんなふうに?」
半弥がそう返す。
「それは分からない……。これから考えるしかないと思う」
暫くの静寂。
それを破ったのは、何故か笑顔の白川さんだった。
「ねぇ、蔭山君?」
「?」
「私にも協力させて?そのこと。私、絵里ちゃんの1番の友達だと思っているから」
「もちろん!」
日は更に傾き、教室も次第に暗くなる。
「今日は帰らないか?」
それを見てだろう。
半弥がそう提案してきた。
「そうだな」
俺たちはそれぞれ、帰る支度をして暗くなった教室を去った。
2
『蔭山さん。お願いがあるんです!』
「何があった?」
『あの馬鹿が、一目惚れしたって言ってきました。私どうすればいいんですか?』
時刻は夜9時。
家に帰ってきて、勉強しようとして机に向かった時だった。
携帯からメールの通知音がなった。
普段メールをしないため、この通知音は珍しかった。
強いて言えば、蘭華から『遊ぼう!』と来ることがあるのだが、今のタイミングで来るはずもないだろう。
俺たちは、互いに距離を取っているから……。
最近は何かあればすぐに蘭華が浮かんでくる。
懐かしい気持ちが、いつも胸を占領していた。
俺は1度、深呼吸をした。
その後に携帯のロックを解除し、メールを開くとそこにあった名前は『桃山 実咲』だった。
彼女からのメールは、沖縄で彼女をナンパから救った後の、確認のメール以来だ。
その内容が、一目惚れしたと言われました!って言われたら、ただの自慢にしか聞こえてこない。
だが彼女は、自慢のつもりで言ってはいない。
半弥からの突然の告白にどうすればいいか分からない。
そんな状況なのだろう。
でも、はっきり言って聞く人間違ってるよ……。
俺、恋愛に関しては疎いからね。
ただ彼女は俺を頼ってきている。
無視は出来ない。
って言ってもなぁ……。
どうすればいいものなのか?
それに、半弥も半弥だよな……。
仲悪くなっていた状態で告白とは、すごい勇気いるだろう。
そういう思い切りの良さは、正直尊敬する。
うん。今回は馬鹿にしている訳じゃないからね!笑。
「桃山さんは、半弥のことをどう思ってるんだ?」
俺がそう送信してから3分後、また携帯の通知がなる。
『どうって言われましても……。彼のことをそんな目で見たことないので。ただ、友達の目線から見れば、変わるかもしれない。そう思って、とりあえず友達として宜しくって言っておきました!』
恋愛感情で好きか嫌いかではなく、単純に彼が嫌いなのか好きなのかを聞きたかったのだが……。
それは、後でもう1度聞くことにしよう。
俺は話を繋ぐためにツッコミを入れた。
「それ、半弥のことをふったのと同じだからな?」
『あ……。もしかしたら、そう捉えられてたかも……』
「勘違いしないで!って後で言っておいたらいいよ」
『それもそうですね』
『勘違いしないで!』という言葉は、ツンデレ要素満載だ。
きっと、半弥は大喜びするだろう。
勘違いが勘違いを呼んでいるよな?これ。
「さっき、脱線したから話を戻すね。桃山さんって半弥のこと嫌い?」
いつも邪魔そうにしているが、正直どう思っているのだろうか。
『下ネタを言ってきたり、ベタついてくるから嫌い……、苦手です。正直、彼の本心は知っているので、全体的に見れば、寧ろ好きです』
思っていたのと、真逆の返答。
彼女は、半弥の本心を見破っていたらしい。
「でも、恋愛感情があるか?と言われると、また別の話だと……」
『まぁ、そういう事ですね』
「俺からアドバイスが出来るのは、1つだけ。半弥とこれから仲を深めていく中で、恋愛対象なのかどうかを考えればいいと思う。答えを慌てても、後悔するだけだよ。恋愛は自然に生まれるもの。俺はそう捉えてるよ」
『そうですね。蔭山さんの言う通りだと思います。これからゆっくりと考えることにします。ごめんなさい。夜遅くにメールしてしまって……』
携帯の時刻を見ると、午後10時半。
かなり時間を割いていた。
「別にいいよ。それじゃあ、おやすみなさい」
そう返信して、俺は勉強を始めた。
次回に続きます!
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