11話 花鳥風月
花鳥風月
1
あの日から数日経った土曜日だった。
俺はまだ、絵里から何一つ説明を受けていなかった。
一体どうすればいいんだ……。
そんなことを思っていると、突然メールが来た。
『ごめん。準備に時間かかって……。でもようやく終わったよ』
『結局何をするつもりなんだ?』
『剣也君。蘭華ちゃんと幼馴染なら、気付かない?明日、何の日?』
俺は、記憶を呼び起こした。
「明日は……」
自分の部屋に1人でいた俺は呟いた。
明日は、何の日か……。
5月20日……。
俺は、はっとした。
明日が何の日か思い出したのだ。
すぐさまメールを返す。
『蘭華の誕生日だ!』
『正解』
『その誕生日に何をするんだ?』
『誕生日にすることなんて、決まってるでしょ?パーティーだよ』
『パーティー?』
『うん。蘭華ちゃんに思いっ切り楽しんでもらおうと思って。きっとその中で、剣也君と話す機会も出来ると思ったの』
『その準備をするために頑張ってくれていたのか。何度感謝しても足りないくらい感謝してる。本当にありがとう!』
『うんうん。私がしたいからしてるだけ。2人には仲直りしてほしいから』
俺はその文を見て、感謝と同時に尊敬の念が生まれていた。
他人のために頑張ってくれるなんて、なんてかっこいいんだろう。
俺はそう思った。
その後は、明日の予定や色々な打ち合わせをして。
終わったら、明日に備えて俺たちは眠りについた。
と言っても、パーティーは夕方からなのだが……。
2
時間は流れて、パーティー当日の夕方。
俺は先に来ていた絵里と、パーティーの準備をしていた。
ちなみにパーティーの会場は……。俺の家だ。
「こんな感じでいい?」
俺の部屋を飾り付けしている絵里は、そう言った。
「バッチリだ」
部屋は、色紙の飾りで彩られている。
この飾りは、全て絵里が企画して材料も集め、作り上げたものだ。
本当に感謝、尊敬の気持ちでいっぱいだった。
「後は、ケーキを持ってくるだけかな。私、持ってくるね!」
「いや、当の本人来てないし、それに後で俺が持ってくるよ」
「分かった」
絵里は、準備が終わって満足気な様子で、俺の勉強椅子に腰掛けた。
俺も、準備で疲れたので床に座り込んだ。
「ふぅ〜、終わったぁ〜」
「お疲れ様。本当にありがと」
「昨日も言ったけど、私がやりたいだけだから感謝されるようなことしてないよ?」
「絵里のすぐに行動できるところ、羨ましいな」
「いやいや、そんなことないよ」
そう言って、絵里は照れた様子で言った。
「俺、自分が嫌いになった」
「どうして?」
「俺がもう少しまともで、実行力があればすぐに解決できたことなのに。他人に頼ってばっかりで自分から行動出来ない、そんな人間だからさ……」
あの日、彼女に拒絶され俺は、話しかけることを恐れた。
でも、そんなことをしていても解決出来ないと知っているのに……。
何も出来ず、どうしようかと考えていた時に絵里に声をかけられた。
そして、俺はその優しさに甘えて彼女を頼った。
自分で起こした問題なのに、解決出来ないなんて。
俺はそんな自分に、無力さを強く感じていた。
「剣也君……。それは違うと思うよ?」
絵里はすっぱりと俺の言ったことを否定した。
「他人に頼ることって悪いことなわけがないじゃん。人ってさ、どんな人でも1人じゃ生きていけないよ?」
言われてみればその通りだ。
自分1人で生きている人はいない。
赤ちゃんや子供は親を頼り、成人したあとも親だったり、配偶者を頼って生きている。
それを思えば、俺の選択は間違ってないのかもしれない……。
「そうかもしれないな……」
「そうだよ。それに、自己嫌悪しすぎだよ?そんなの自分で自分を苦しめてるだけじゃん」
「確かにそうだな。もう止めるよ」
「うん。それがいいよ!」
「あのさ……」
「何?」
「これからも頼ってもいいか?」
「うん!もちろんだよ!私は、剣也君の友達なんだから!」
「ありがとう」
『ピーンポーン』
俺達の会話が終わった瞬間、インターホンがなった。
蘭華だろうか……。
「私が出るよ!」
「いや、俺が行くよ。自分の家だし」
俺は階段を降りて、玄関に来た。
玄関の扉の前に立っていたのは、蘭華ではなかった。
剣の女王だった。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
「悪かったな……。君に大きな責任を追わせてしまって」
「いや、ちょっと事情があって……」
「い、いえ……。全部俺のせいですから、先輩は気にしないでください」
先輩は、申し訳なさそうにこちらを見ていた。
「ところで、先輩は俺に謝るためにここに?」
「いや、蘭華の誕生会に呼ばれてな。君のクラスメイトの皆田さんに」
「あ、そうでしたか。どうぞ、上がってください」
俺は先輩を連れて、2階へと向かった。
3
部屋で待機していた俺は、3回目のインターホンで再び玄関に向かった。
2回目ではないのか……。そう思うだろうが、2回目は半弥だった。
だが、話が長く少しイラッときたのでここは割愛させていただきます。
玄関に立っていたのは、今日の主役だった。
淡い赤のワンピースに、白のヒラヒラとしたスカート。
いつもより一層可愛らしい服装をしていた俺は、少し見とれていた。
俺は口をなかなか開けなかった。
それは、彼女の服装に見とれていたからだけではない。
2人の間に流れる不穏な空気が、俺が口を開くのを邪魔していたからだ。
「ごめん、剣也」
蘭華が、口を開いた。
そして申し訳なさそうに、言葉を続けた。
「私が変わらないままがいいって言ったのに、喫茶店であの光景見てから、剣也を敬遠してた」
「……」
「本当にショックだった……。幼馴染の私が、剣也と1番長くいた私が、剣也に選んでもらえなかったことに……」
「あのさ……」
「?」
俺は、彼女の話を止めた。
勘違いだと言うには、このタイミングが相応しいと思ったからだ。
「勘違いだよ」
「え?それって……」
驚きの表情で、蘭華は俺を見つめた。
「この前のあれさ……。たまたま、先輩の方から話があるって言われただけで、別に付き合ってるわけじゃないよ」
「ほんと、に?」
蘭華はまだ疑っている様子だった。
「本当だ」
俺がそう言うと、蘭華の表情は少し緩んでいた。
ほっとしたらしい。
「私の勘違いだったんだね……。なのに、なのに……。こんなことしちゃって……、本当にごめん」
「蘭華……。過去は過去だよ。何をしようと変えられない。これから楽しめば、それでいいんだよ!」
「そうだね……。これから、今までの分楽しめばいいんだよね」
蘭華の表情に、ついに笑顔が戻ってきた。
俺も安心して顔の緊張を解いた。
「蘭華……」
「何?」
「お誕生日おめでとう!」
俺はまだ言っていなかったお祝いの言葉を蘭華にかけた。
「……、ありがとう。でもさ、剣也より歳とっちゃったね……」
蘭華は、クスッと笑う。
俺の誕生日は12月。
実はこのセリフは、蘭華の誕生日の度に蘭華が言うという恒例になっていたのだ。
「誕生会、始まるよ!」
「何か、絵里ちゃんにも迷惑かけちゃったね……」
「きっと蘭華が楽しんでいる様子を見れば、絵里は喜ぶと思うぞ!」
「そうだね」
こうして俺たちは、復縁した。
幼馴染という心の支えが帰ってきて、俺の心にあった嫌な気分は、ようやく晴れた。
「よし。行くか!」
「うん」
俺たちは揃って誕生会の会場、つまり俺の部屋へと向かった。
4
私のために開かれた誕生会は、10時頃にお開きになり、私は片付けをした後に剣也の家を出た。
街灯があるにも関わらず、あまり暗くない道をゆっくり歩いていく。
剣也の家から私の家までは遠くなかった。
私は心の中に、暖かいものを感じていた。
誕生会を開いてくれて、こんな楽しい思い出も作ってもらった。
私は感謝の気持ちでいっぱいだった。
だが、それよりも強い気持ちがあった。
今日の出来事によって感じた、大きな憤りだった。
きっとあの人は、何とも思っていないはずだ。
自分がやっている、とても最低な行為をあの人は自覚していないだろうから。
私は、そんな憤りを表に出さないようにして、自分の家の扉を開けて中へと入っていった。
夜の空は暗くて見えない。
だが、この辺の地域は市街地。
街の明るさで、多少空の雲が見えていた。
今の上空は、雲ひとつ無い。
だが、西の方角を眺めると見えるのは、夜空のようにどす黒い雨雲の塊。
それを見る限り、この先、天候が大きく変わるのは避けられそうになかった……。
途中途中、文章がおかしいとかんじたりするかもしれませんが、仕様の場合がありますのでご了承ください。
現在編集中ですので、この後にある話数の内容が繋がってなかったり、話数が飛んでいたりします。
そのため、更新時刻をご確認の上で読んでいただけると幸いです!
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