ハッピーエンドとは限らない
物語って、ハッピーエンドで終わるよね。
拐われたお姫様と救った勇者様が恋仲になって、色々な試練を乗り越えて結婚、とか。
家の事情で離ればなれになってしまったけど、お互い実は想っていて、大学で再会してそのまま結婚、とか。
ーーーーーでもね、そんな話の裏側は、ハッピーエンドとは限らないんだよ?
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あれは、2年前。
中学の卒業式を終えた、金曜日の午後の事。
クラスの皆で集まって、お別れパーティを開いた。
途中で担任だった先生が乱入してくるなんてハプニングはあったけど、パーティは滞りなく進行した。
ーーそれが起こったのは、パーティの終盤。
盤上ゲームの罰ゲームとして、好きな人に告白する、というものがあった。
男子側では違う罰ゲームだったみたいだけど、パーティの中で1番盛り上がったと思う。
私は、そんな罰ゲームをする事になった。
女子側の罰ゲームは、『好きな異性に告白する事』。
当時の私には、恋愛感情とまではいかなくとも、気になってる男子がいた。
名前は、秦守 純。
私立で偏差値も高かったうちの中学の、成績上位者。
運動も得意で、テニスが好きらしい。
顔も所謂イケメンと言われる類いの、アイドル的存在の男子だった。
男子側の罰ゲームの相手は、偶然な事に秦守 純だった。
「あれ、そっちで罰ゲームに当たったの、秦守!?」
「やだ、秦守が罰ゲームなんて珍しー!」
いつも秦守と一緒にいる、秦守と同種の女子達が騒ぐ。
え、マジか。
まさかの事に呆然としていると、「ほら、早く逝ってこいっ!」
と、友人の夏希に背中を押された。
必然的に、秦守の前へ飛び出る。
「っあーー、そっちの生け贄って、澤口?」
億劫そうに秦守が尋ねる。
そこでやっと我に返った。
「えと、はい」
「じゃー、単刀直入に言うね。澤口 詞葉さん、俺とお付き合いしてください」
瞬間、(女子側の)空気が凍った。
「…は?」
「だから、俺と付き合って」
なんてこったい。
「っちょ、詞葉!息しなさい!」
「…はっ!」
夏希に肩を揺さぶられて、息が止まってる事に気がついた。
判断を仰ぐ為に後ろを振り返ると、女子は皆『受けろ!』って感じの顔をしてた。
般若みたいな顔で、とても怖かったのを覚えてる。
「じゃあ、宜しくお願いします」
そう言って頭を下げたら、凄い歓声が上がった。
そうして私、澤口 詞葉は、秦守 純の彼女になった。
ーーーーはずだった。
「っは、はぁっ、はぁっ…」
さっきのは、なんだったんだ。
確か、教室に忘れ物を取りに行く途中、物置の筈の準備室から物音がしたんだ。
何事かと思って、ドアを開けてーーーー
「っは、そう、だ……、女の子と、きす、して……」
目眩がしそうだった。
今日は2年生最後の日。
卒業式のあの日、告白を受けてから2年間、秦守ーーー純とは付き合ってきた。
私もそこそこ成績が良くて、私達は同じ高校だった。
同中だと、中学でいつも純と一緒だった女子二人組の片割れの宮橋 莉子だとか、私の友人の夏希とかが一緒だった。
あのあと、たまたま帰りが同じだった宮橋さんから聞いた話だと、男子側の罰ゲームも、女子側と同じお題だったらしい。
正直、私みたいな平々凡々な女子の何処がいいんだろう、と思ってたけど、取り敢えずまあいっか、と流してた。
……それなのに、なんで純は宮橋さんとキスしてたんだろう。
私に飽きた、とか?
……うん、有り得るわあ。
兎に角事情を、と思って下駄箱に向かいながら携帯を取り出すと、丁度ヤツからメールがあった。
『今から屋上来て』
それだけの簡素なメール。
そういえば、他の女の子にはいつも長文のメールだったな~、なんて思い出して、私はそれだけの存在なんだな、って悟った。
なるべく急ぎ足で向かった屋上。
ドアノブを握る手が震える。
ギィィ、と寂れた音をたててドアは開いた。
屋上には、予想通り純と宮橋さんがいた。
深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。
「……それで、何の用ですか?」
話しかけてやっとこっちが着いた事に気がついたみたいで、ゆっくり私に体を向けた。
……宮橋さんの腰を引き寄せながら。
「……さっきの、見たろ?」
ーーー来た。
「……準備室の?」
喉を鳴らす。
「あぁ、そういうことだから、別れて」
あっさり言った。
「…………分かりました」
頷くしか、なかった。
宮橋さんは、顔も体型もモデル並みに良いし、頭脳も純と同じくらい。
対して私は日本人らしい醤油顔の平凡な容姿に、平均より少し上の位の成績。
純がどちらをとるかなんて、火を見るより明らかなのに。
…………なんで、こんなに苦しいんだろう。
「じゃ、バイバイ」
純はこちらをちらりとも見ずに去って行った。
「……ふふっ、無様な澤口さん」
「……えっ」
何故か宮橋さんは戻ってきた。
明らかに嘲笑と呼ばれる笑みを浮かべながら。
「ふふふっ、純が貴女みたいのを選ぶわけないじゃない、おバカさん♪私の言葉をあっさり信じちゃって」
「え、じゃ、あの時のは……」
まさか嘘だったのか、と宮橋さんを見ると、笑みを濃くした。
「ええそうよ、嘘に決まってるじゃない。
男子側の罰ゲームは、女子の反対、『嫌いな異性に告白する事』だったの。
残念だったわね、純、貴女の事嫌いだったのよ?
なのにあっさり信じて。
愉しかったわぁ、ふふふっ!」
「そんな……」
宮橋さんは、最後に爆弾を落として行った。
「貴女なんかと2年間も付き合っていられたのは、わたしのお・か・げ!
『折角何だから、付き合ってあげたら?』って言ってあげたの。
本当なら、貴女が有難うって言う立場なのを忘れないでね?」
クスクス笑いながら去っていった。
私は宮橋さんの言葉を処理出来なくて、しばらく座り込んでボーッと空を見上げてた。
太陽が地平線に沈みかけた頃までずっとそうしていた。
全部、宮橋さんの手の上で転がされていたんだ、という結論にたどり着いた。
……………バッカみたい。
憧れの人に告白されて舞い上がって。
裏でバカだと笑われて。
…………それに気づかなかった私が、バカみたい。
ほんと、笑えてくる。
「 あーぁ………… 」
すき、だったのに、なあ………………
…………バイバイ、私の恋。
そう呟いた私の頬は、濡れていた。
ーendー