97話 《盾》。その文明に喜ぶ
マーレだって役に立ちます
マーレは海。そして、商売で国を強くしたからと告げて、
「偽物が出回りやすいんだよね。まあ、きっちり締めるけど」
だから、分かるんだ。
「お役人じゃなくてよかったね」
「全くだ」
これで絞りやすくなったか。
「助かる」
「いえ、いえ。どういたしまして♡」
にこにこと返事をして、
「それにしても、偽物が出るって事は文明がだいぶ進んだのが良く分かるね」
「なんでだ?」
「だって、偽物を作れば売れるって判断されたって事でしょう」
嬉しくないけど嬉しいよね。
「………」
なる程。そういう考えがあるのか。
考えもつかなかった。
マーレが笑みを浮かべている。
「平和だねぇ~」
「なんだ。急に」
話題が急に変わるな。
「あのね」
「何だ?」
「文化ってね。平和じゃないと維持できないんだよ」
「……?」
マーレが年下に諭すように――そういえば年上だったな――、
「戦争ってね。文化とか文明を一瞬で壊しちゃうんだ」
悲しげに、
「戦争が起きると職人も商人も他国に逃げちゃうか。戦争の巻き添えになって亡くなるんだ」
と説明する。
「だから、文明が育っているという事はその国は長く平和って事なんだ」
良かったね。
「………」
それに対して沈黙してしまう。
「ヒメル?」
「……エーヴィヒは軍国なのにそれでいいのだろうか?」
尋ねる。
そうこの国は軍国で、軍国である事が誇りなのに平和なのを誇っていいのだろうか。
「――いいんだよ」
それに返ってきたのは肯定。
「エーヴィヒはもともと自分から戦争しない国だよ」
攻められるから防衛をする。
そういう国だと他国のマーレに諭される。
「……詳しいな」
「そりゃ象徴として長いからね。――フリューゲルより長生きだよ」
これでも。
「歴史を見てもよく分かるでしょ。元々安住の地を求めて長い旅をしていた騎士団だった。それが安住の地を手に入れて、文明が育つほどその地で暮らせているというのは多分」
区切られて、
「先祖代々の望みだったんじゃないかな」
今度、フリューゲルに聞いてみなよ。
「ああ。――そうする」
まあ、姉さんはいま遠い地だから聞けないが。
「あっ!!」
急に大声をあげる。
「どうした?」
耳元で大きく叫ぶな。
響くだろう。
「文明が育ったと喜んでいる場合じゃないよ!! 偽物を取り締まらないと!!」
信用問題に関わるんだよと忠告されて、
「早く!! 早く!!」
腕を掴まれて引っ張られる。
その強引さに苦笑しつつ、
「協力してもらおうか」
先輩。
そう告げるとマーレは。
「先輩。先輩か……」
嬉しそうに顔を赤らめて、
「照れちゃうな」
と、笑っていた。
これで対等らしくなれたかな?




