94話 《剣》。牽制される
烏丸との話。
ある時は、重しとともに石段を登り、ある時は、重しのまま組み手をして、そうやって日々過ごしていく。
「いい感じだな」
切磋琢磨して――こういうのは身近で競える相手がいると余計伸びるものだ――鍛えていったが、
「………」
ああ。うん。そうなるとは思ったよ。
遠い目をしてしまうのも仕方ないだろう。
ぽこん
ぽこっ
二人から生まれた神。
湧き上がる歓声。
「……緊張感がなくなったな」
そう言いたくなるのも無理もない。
鍛えた。
しごいた。その都度ポコポコ生まれるのだ。神が。
「子だくさんだな……」
「ルーデル卿!!」
慌てているけど。もうそんな感想しか抱けない。
「いや、褒めてる」
一応成長の証だからな。
でも…………。
「やっぱ。何とかしならないのかな」
この神達。
足元にわらわらいる。
泣いたり、怒ったりじゃれたり遊んだりと忙しない。
「………」
ゲオルグに見せたらどうなるんだ。いや、それよりもこいつらを連れて国に帰れるんだろうか……。
アドルフはすでにこの国に定住希望を出しているからな。
優秀な人材を逃したくないけどその方がいい気がする。うん。
(色物になった兵はちょっとな)
「――と思ってませんか?」
にこっ
烏丸がお盆に食事を載せてやってくる。
「おにぎりです」
「ふうん。旨そうだな」
どう食べればいいのかと首を傾げると。
「そのまま手で掴んで食べて下さい」
言われて、手で掴んで口に運ぶ。
「旨い!!」
「そうでしょう」
烏丸が嬉しそうだな。
「この国の料理はみんな旨いな。慣れるのに時間かかったけど」
「そういうものですか?」
「ああ。俺らは米文化は無いからな」
せいぜいパンだ。
「サンドイッチの様なモノですよこれは」
「って事は携帯して食べれるものか」
ぱくぱく
話しながらも手が止まらない。
その様を見てくすくすと微笑む烏丸。
「烏丸?」
「いえ、そこまで喜んでもらえて嬉しいと思いまして」
烏丸の視線。
「一方的に利用されないかと伺っているようだな」
「なんの事でしょうか?」
「腹の探り合いはしなくていいぞ」
そう返すと沈黙が流れる。
「……軍国の勘ですか?」
「どちらかと言えば、守る者の直感だな」
こいつと俺は似ている。
守るために手段を選ばない性分。
顔で笑っての探り合い。
「素晴らしいですね」
「神を他国に出されるのは困るって事か? アドルフをこの国に残るように手をまわしただろう」
尋ねるような断言。
「おや。分かりましたか?」
「ああ。――あいつは俺が目を付けていたのにあいつが神と別れたくないから帰りたくないと言い出してな。どこぞの誰かが国を出ると神が消える恐れがあると囁いたみたいで」
「それが私だと」
「さあ、そこまで判断できねえな」
そう告げるとくすくすと。
「正解ですけどね」
「――認めたか」
「ええ。――封鎖前は神を攫おうとする者がいて、実際に神が消えましたから」
そう告げられて、
「……初耳だぞ」
と返した。
腹の探り合い。あれ、おかしいな…?(こんな設定じゃなかったのに)




