90話 《剣》。部下を鍛える
楽しく始めるルーデル卿の訓練(嘘)
「ルっ…ルーデル卿!!」
近付いてくる気配がするなと思ったが、案の定だった。
「どうした? 荷物はまとめ終わったか?」
先日首宣告をした――お前国帰れよと告げただけだが――出来ない副官がやってくる。
「いえ……」
そいつの手にはぐしゃぐしゃにまとめられた手紙。
ああ。ゲオルグからの手紙が届いたんだな。
「あの…その…」
何から言い出そうという感じで言いよどんでいるそいつを見つつ――正式にはそのぐしゃぐしゃの手紙を見て、
(ふうん)
かろうじて字が見える――普通は見えません――並んでいる単語からすれば。
(俺に認められなければ出世も閉ざされる。自分で懇願しろって感じかな)
さてどうするか。
一応あいつから話が来ているからさっさと声掛けても……あ。駄目だな。こいつのためにならんな。
「………」
今、こいつの頭の中ではどうして自分が認められないのか分からず、俺に懇願しろというのが不服だろうな。手に取るように分かる。
「――用が無いなら退け」
お前ごときに構っている時間は無い。
実際に忙しいし、ここでどういう反応をするのか見たかったからの声掛け。
「……っ」
おい。いま舌打ちしたな。聞こえたぞ。
「……用が無いなら俺は去るぞ」
「………」
まだ動かんな。
まあ、いいか。
そいつを置いて、仕事に訓練に戻る。
そう置いてきたのだが――。
すたすたすた
スタスタスタ
「………」
俺の足音に続く足音。
そいつが後を付けてきているのだ。
ぴたっ
ピタっ
俺が止まるとそいつも止まる。
振り向くとそいつも振り向く。
「………」
何したいんだ。ホント。
呆れる俺は悪くないだろう。
まあ、ほっとこう。
即断するといつものように軍事訓練を見て回る。
俺自身はいつも通りに動いているが、訓練を受けている者達の視線が訝しげだ。――まあ、理由も分かるけど。
変なモノが付いて来ているからいったい何だろうという感じでいつもより視線を向けてくるのだ。
俺自身がまったく気にしてないから慣れれば気にせずに訓練をしていく者達は因みに優秀な人材で、いつまでも気にしてしまうのは未熟というものだ。
因みに達人は全くこちらを見ないが、何か動きがあったらすぐに動けるような神経を常に向けている。
そんなものをくっ付けながら訓練を見ていると。
「――」
ある一人の動きをずっと目で追う――新兵の一人で、まだまだ未熟さが目に付くが……興味が湧くモノを感じた。
最初は好奇心。そして、しばらくすると。
(面白い逸材だな)
と仕込んでみたくなる。
そう決めると即行。
持っていた指南用の木剣でそいつに向かって攻撃を仕掛ける。
「わっ!!」
慌てるが持っていた剣で攻撃を防ごうとする動き。目はつぶらない。
「――いい手だ」
だけど、
「攻撃が正面から来ると思うな」
横からの攻撃。
倒れるそいつ。
「ルーデル卿!!」
あっ、くっつき虫がしゃべった。
「何をするんですか!!」
文句を言ってくるそいつに視線を向け、
「――邪魔だ」
一瞥して退ける。
「ルーデル卿……」
新兵が起き上がろうとしながら呼ぶ。
「――ああ。いい目だ」
こいつはいい。
化ける。
「俺が直々に鍛える。命令だ」
宣言。
「……えっ⁉」
どういう事だと戸惑っているそいつが呟く。
「お前はモノになる」
そう告げると、
「――待ってください!!」
固まっていたくっつき虫が復活する。
「その者よりも私を鍛えて下さい!! あなた様に直々に鍛えて貰えと命を受けたんです!!」
「――ようやく言ったか」
ぼそっ
「えっ……」
俺の言葉はかろうじて聞こえたようだ。
躊躇うそいつにニンヤリと――俺を知っている輩からすれば恐怖を誘うものらしい――笑うと。その笑みを向けられたそいつらは顔を赤らめる。
「なら、二人とも鍛えてやろう」
地獄の訓練をな。
その心の声は聞こえなかったそいつらは活き込んで準備をする。
(いつまでもつかな……)
と意地の悪い事を思っていたのだった。
地獄の入り口にようこそ




