89話 《盾》。推薦理由を知る
ドSの心に火が付きました
「ルーデル卿」
仕事にひと段落月、執務室で休憩でもしようかとそちらに向かって歩いていたら、片言のエーヴィヒの言葉で呼ばれる。
「どうした?」
振り向いて尋ねると、そこには、俺のエーヴィヒの部下ではなく天都の民。
「……”どうしましたか?”」
天都の言葉で尋ねると――天都の言葉で一番聞いているのは烏丸の口調なので自然に丁寧口調になってしまう――その住民はにこにこと。
「連絡船が来てます」
と、そういえば、この者は港の防衛というか警備をしている者だったなと思い出す。
「連絡船……」
人はあまり乗れないが、文をたくさん乗せてくれる船。天都の任務に就いている者らはそこで家族の文を受け取る。
俺もリヒトからの文と国からの報告書を受け取る。
「ああ。ありがとう」
礼を述べ――天都の言葉で――その連絡船に向かう。
連絡船には一刻も早く手紙を受け取りたいという者達が集っていて賑やかだ。
「ルーデル卿もいらしたんですか?」
部下の一人が俺に気付いて挨拶をする。
「ああ。ちょうど手も空いてたしな」
いつもは忙しかったので、連絡船を見る事もなかったが、
「綺麗だな」
天都の技術。そして、海に関しては右に出るものは居ないと言われるラ-セル。アルシャナの技術の融和。
それがふんだんに使われている。(ちなみにこの船が完成した時、カナリアとマーレにこの船の素晴らしさを延々と言われて耳にたこが出来るかと思った)
船のない国だから船の良し悪しは分からないが造りのきめ細かさは俺でも分かる。
「ルーデル卿の文もありましたよ」
声を掛けられて渡される。
リヒトに妃殿下。そして国の重鎮(機密事項は別人の名前が書かれている)。そして、
「ゲオルグ……?」
老齢ゆえに天都に連れてくるのも叶わなかった例の副官の推薦者。
「あいつが珍しいな……」
因みに副官はまだ天都にいる。任期の交代の船はまだ来ていないのだ。
かさっ
手紙を広げる。
『卿。お元気ですか?
おそらくそろそろなんでこいつが推薦されたのかとひと悶着があったと思いますので文を出します』
ひと悶着あるの前提で推薦してきたのかよ……。
『なんでこいつを推薦してきたのかと苦情があると思いますが、国に送り返すのはもう少し待ってください。――貴女の下でその偏った思考をへし折ってもらいたいので』
「託児所じゃねえぞ」
『おそらく、貴女様もお気づきでしょうか。本来は別の者を私は推薦してました』
「………」
読み進める。
『ですが、その者の出生ゆえに待ったを掛けてきた者がいまして、その者が自分の親族を進めてきました』
なるほどな……。
『かの者はある方面では優秀です。ですが、自分の考えが正しいとばかりにその眼は曇らせています。その偏見がある限りかの者は伸びません。ですが』
一度切れる。
『ですが、その眼の曇りを晴らしたら伸びる者だと思われます。――卿には申し訳ありませんがその眼を晴らすのに一肌脱いでいただきたいのですが……』
「俺にしごかせろという事か。面倒なのを押し付けやがって」
舌打ち。
だが、
まあ、してやろうか。
後続の船はまだ来ない。その間に見定めてみるか。
『追伸 かの者にも文を出しておきました。後続との入れ替わりで戻ってきたら軍を降格させる旨と卿に縋り付いて師事を仰げと。――それくらいしないと誇りが邪魔して貴女様に会いに行こうとしないと思いますので』
「………」
その脅しを目にして、
「大変だな……」
と他人事の様に同情した。
これより特殊訓練が始まるかもしれません




