88話 《盾》。使える部下を褒める
彼の名前は某独裁者からです。悪気はない。
アドルフと呼ばれたそいつに俺は近付く。
「いい動きだな」
天都の古武術。
武器のない場合。その場にある物を武器に応用する。そんな戦い方を天都の兵から学んでいるのだ。
「ルっ、ルーデルッ卿!!」
あたふたと反応するアドルフに、
「驚かせたな。――アドルフ・フォン・シュタイナー」
「俺の名前……」
「一応。全員の名前と顔は覚えてるぞ。俺はお前らの上司だからな」
さすがに国民全員は覚えられないけどな。
そう返すと、奇妙な顔をされる。
「どうした?」
なんか妙なこと言っただろうか。
「ああ」
しばらく考えて、
「国民全員覚えらなくて悪いな。いくら俺でも会っていない奴らは名前が一致しなくてな」
名前は目を通すんだけどな。
「ルーデル卿……」
信じられないというようにこちらを見て、
「国民全員の名前を憶えてるんですか……」
「? 当然だろう?」
何かおかしかったか?
尋ねると、
「いえ、普通覚えないと思いますが……」
躊躇いながらの言葉に、
「そうか?」
覚えやすいと思うが、結構似た名前があるし。
「国になる前はみんな家族だったからな。家族の名前は覚えるものだろう?」
それは今も変わらないと思うがと返すと。
「家族……」
「あっ、嫌だったか?」
「いえ……」
少しだけ、恥ずかしげにはにかみ。
「家族と言われるのは、嬉しいです……」
「………」
アドルフの家族構成はしっかり覚えている。
こいつに両親は居ない。
こいつは孤児院で育っている。
こいつが軍に入隊したのは孤児院に送る金を手っ取り早く稼ぎたいのと軍に所属すれば、学校に通わせてもらえるからだ。
「俺みたいな親……なのかな? は嫌じゃないならいいか」
さすがに姉と言わない。俺の弟はリヒトだけのつもりだ。
「いえ……」
恐れ多いと首を振って慌てる様が可愛いなと思いつつ、
「天都は慣れたみたいだな」
お前が一番乗りだと話を変えて、その足元にいる神に目を向ける。
………神が生まれたのは予想外だが。
小さな子供のような神。見た目はアドルフに似ているが色合いが天都の黒を宿している。
まるで……。
「お前の弟みたいだな」
頭を撫でる。
きゃはっ
嬉しそうに笑う。
可愛いな。
リヒトにはこんなに小さな姿は無かったから――拾った時は10歳ぐらいの見た目だったし――侍女達の子供を遠目から見るぐらいなので――公私を分ける者が多かったので連れて来てもきちんと会わせてもらえなかった。
「俺の弟……」
大きく目を見開く。
「どした?」
「いえ……、俺に似ている弟は初めてなので」
「ああ。そうか」
孤児院にたくさん子供がいるからな。
「だから……」
少し迷い、
「嬉しい。です」
告げると足元の神が、にぱぁと笑う。
嬉しいと言ってもらえた事が嬉しい。そんな顔。
「………」
アドルフは笑う。神も笑う。
それに微笑ましいなと思いつつ、
(リヒト。元気かな……)
と、母国の弟に想いを馳せた。
因みにアドルフの産んだ神様にはメルヘンと付けられてます。(命名アドルフ)




