87話 《剣》。使えない部下に苦労する
弟が反乱を未然に防いでいる頃。
天都の国鍛錬所。
そこで今日も軍事訓練。
「またか」
「またですね」
もう慣れた日常の風景。
今日もまたポコポコと神が生まれる。
「先日さ……アドルフもとうとう神を生めるようになってさ」
「マジかよ」
神地の住民だけだと思っていたが最近では俺と共に来た教官達も生み出させるようになってしまった。
胃が痛い。
だが、
「いい傾向だな」
「何がですか?」
意味が分からないと副官が不思議そうにこちらを見てくる。
「分からないのか?」
これが分からないのならお前の位下げないとな。
そう告げると、
「ちょっと、待ってください!」
慌てて訓練をしている者達を見る。さて、こいつは俺の言っている意味が分かるかなとにやにやと見ていると、
「ルーデル卿……」
「ヒントは教えんぞ」
何かを言う前に言っておく。
全く。気付いてないのか。
呆れてしまう。
天都の兵士達。エーヴィヒから選ばれてついて来た教官達。
文化も言語も違うが、互いに遺志を伝え合おうとしているその姿にいろいろ見ていると面白いと思えるが。
それが分からないとは………。
(こいつを俺の副官で連れてきたのは間違いだな)
本当は別の奴を連れてくるつもりだったが、高齢だし、旅には耐えられないとの事でそいつの推薦するやつを連れてきたが、
(俺の基準で使い物にならないな)
おそらく、自国で教える分はいいだろうが、他国で教えるにはまだ足りない。
他国に教えるとして相応しいのは。
「………」
ある一人の教官に目が行く。
神を生んだと散々騒がれている若い教官だ。
そいつの生んだ神は、エーヴィヒと天都の言葉を通訳して意思の疎通を助けている。
「ルーデル卿……」
「時間切れだ」
まだ気付かないのに呆れて溜め息を吐き。
「あれを見ろ」
さっきのアドルフの方を指さす。
「ルーデル卿?」
「一方的に教えるのではない。教える事で自分のやり方を反芻して、分かりやすい教え方を模索して意思の疎通をしている」
そして、教えるという立場から、より自分が教える立場に相応しい振る舞いをしていき、それでいて天都の良い所を吸収していく。
いい傾向だ。
馴染むのはいい事だが、神を生むのは正直少々…………いや、かなり反応に困るが……。
「――馴染んでいいのですか?」
「んっ?」
「我等が育てた兵が我ら剣を向けるかもしれません」
「………」
副官の言葉に沈黙する。
「ルーデル卿?」
「――お前は人に教えるのに向いてない」
断言。
「ルーデル卿⁉」
「――任期が長くなる場合は交代で教官が来る事になっている。お前は帰れ」
「ルーデル卿!!」
「教える者が自分の剣を向けると考える時点で向いてない」
「ルーデル卿っ!!」
慌てて謝罪を言おうとしてくるそいつに向かって、
「俺らは、教える立場で来ている。そして、教える事でエーヴィヒ(おれら)と天都の間に切れない絆。敵対する事で損をするというのを教えての同盟の強化を図る事目的だ」
それが出来ないと言う様なものだ。
「弱腰なら帰れ」
切り捨てるように告げると、もう見向きもしない。
そいつはしばらくそこに居たが、
「――後悔しますぞ」
捨て台詞を言って去っていく。
「あいつも見る眼が無いな……」
推薦してきた部下の顔を思い浮かべて溜め息を吐いた。
因みに推薦した部下は例の老齢の部下です。




