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ニンギョウタチの物語  作者: 高月水都
青年期。盾と剣の別行動
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83話  《盾》。火種を潰す

残虐描写があります。ご注意ください。

 ひそやかに夜の闇を進んでいく。


「あそこだ」

 そこはある一軒の店。

 知らない人から見れば深夜営業の店だと勘違いするだろう。

 明かりが扉の隙間から見える。


 だが、

「音が不自然なくらいしないな」

 夜の店は気を付けているつもりだとしても音が外に漏れていくものだ。


 酒が出るから。

 どんなに音を抑えようと店が努力しても酔っ払いの騒ぎ声は近隣に響く。


 恥ずかしいが、それが、エーヴィヒ国の民の汚点だった。

 だが、その汚点がここに出ていない。


 隊長がすっとある部下に合図する。

 音もなくその部下はその店に近付く。


 それを皮切りに数人動き出して壁に屋根の上に、裏口に次々と動き出す。


「………」

 情報の確認。

 中の会話に聞き耳を立てる。


 隊員の一人が合図をする。

 それに目を通して進んでいく。


 表の入り口。裏口にそれぞれ分かれ、他に入り口が無いか。窓にも数人構え、何時でも動けるように準備する。


「公」

 耳元で呼ばれる。

 部下の一人がどうやら倉庫に隠してあった武器を見付けたという報告。


 物理的証拠が見つかった。


 それに口元を歪め、

「っ!!」

 

 ――合図を出した。


 どぉん


 ばりん


 がしゃん


 次々に突撃していく音。

 逃げようとする者達も居たが、すでに出入り口は封鎖されている。


「………」

 そんな狭い戦場を通り、店の二階に進む。


 二階のある一室。

 慌てているのかがさごそ音がする。


「――そんなに慌ててどうするつもりなんだ?」

 扉を開けて中に入る。


「しょっ、象徴様っ⁉」

 ぴくっ

 その時怒りで頬が痙攣したがその声を掛けた奴は気付いてない。


 怯えたようにびくびくしていたのが嘘の様に笑い。

「象徴様っ。助けに来て下さったんですね」

「………」

「見て下さい!! あの女を消し去るための同士の名簿です」

「………」

「象徴様が我等と共にあれば、あの女に媚を売っている国民も気付くでしょう」

「………」

「真に必要な象徴は一人。それは、銀ではなく金だと」

 エーヴィヒの民に銀髪は居ない。姉さんは色素欠乏症アルビノ故に浮いた色合いだ。

 

 内心快くないと思っている者も居たが実力で黙らせた。


 だが、それでも全部消えたわけではなく、俺の外見が生粋のエーヴィヒ国民だという理由で姉さんは排し、俺一人を象徴にしようとする動きが時折現れて消える。


 そう。――俺が消している。


「象徴様……」

 返事をしない俺に戸惑う声。

「―――よく集めたな」

「はっ、はい。これも象徴様の」

「こんな国を滅ぼす白アリを」

 白アリは駆除しないといけない。


「しょ…、象徴様……⁉」

「――言っておくが」

 剣をゆっくり抜く。


「その呼び方は我が国では使用しない」

 他の国では一人しかいない象徴だからそう呼ぶのは当然だが、この国では二人居る。呼び方として相応しくないのだ。


 細剣を男の方に貫く。

「さて、どこの国の差し金なんだ?」

「しょ…象徴」

「まだいうのか?」

 深く刺す。

「ぐわぁぁぁぁぁ!!」

 男が悲鳴をあげる。

「――聞きたいのは悲鳴じゃない」

 名簿を奪い取る。


「国を二分にして益を得ようとしているのはどこの国なんだ」

「しっ、知らない!?」

「信じられんな」

「本当に知らないんだっ。あんな出来損ないの象徴が我が国を現すのは不愉快だと思って集まっただけで…ぐぉ!!」

「――それは誰が言い出したんだ?」

 細剣を一度抜き。角度を変えてもう一度刺し込む。


「誰って……皆……」

「ああ。――間違えた。誰がそう言い出すように扇動したんだ?」

 冷たい声で尋ねる。名簿は男の血で汚れそうなので、汚れる前に回収する。


「扇動など……」

「大なり小なり国に不満持つ者がいるが、その不満を姉貴に向けるように唆した者がいるはずだ」

 再び細剣を抜き、反対側の肩を貫く。


「さっさと答えた方がいい。――痛みが長引くのが嫌ならな」

「しっ、知らな…⁉ ぎゃぁぁぁぁぁ」

 指の骨を折る。


 一本。また一本。


「た…助け……象徴様」

「――お前の象徴なんて居ないさ」

 拒絶。

 お前などいらない。


 男の顔に絶望が浮かぶ。


 エーヴィヒの象徴は一人でいいとおれを旗印に仕立て上げようと馬鹿な考えをして俺がそれを望んでいるなんて妄想を抱く。

 ――で、それを俺が不要だと告げると勝手に絶望していく。


 そんなもの誰が望むか。


 俺はあの人と並びたいだけだ。


「さあ、言え」

「あわわわわわわわわ」

 意味不明な言葉を言い続けて、

「象徴様。象徴様。象徴様。しょうちょうさま。しょうちょうさましょうちょうサマ。しょうちょうさま。しょうちょうさまさま」

 壊れたレコードの様になってしまった。


「――ああ」

 しまった。

「俺は姉さんより甘いな」

 心を壊してしまったら尋問できない。


「狂わせて、壊すなんて失態をしてしまった」

 壊した事に対してこれでは尋問できないなとそれ以外の感想はない。


「ルーデル公」

 全てが終わった報告に来た部下がその情景を見て、

「似ておられる」

 と呟くが、

「まさか」

 否定しておく。

「姉貴は、もっとうまく拷問して情報を手に入れる。やり方を間違えた」

 と自分の失敗を自嘲した。





フリューゲルはもっと痛め付けて生かさず殺さずをします。ドS姉弟

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