72話 《剣》。《錫杖》の言葉に不安を感じる
ガミガミ煩いシュトルツとじゃじゃ馬だったフリューゲル。
烏丸とリヒトがどんな話をするか不明だけど。
「俺との接点は少ないし、リヒトにはいいかもな」
俺関係じゃないリヒト独自の友人が出来ればいいと思うが、
「あいつらじゃ色々と不安もあったからな……」
マーレちゃんは女性の扱い方に手慣れてるし、烏丸は紳士だし――雰囲気が――あいつらみたいな事にならないだろう。
実は、リヒトの友人を以前から探していたのだ。
最初は俺の知り合いでもいいかと思ったけど。……捜すきっかけは男の事情と言うやつだった。
象徴は人の形をしているからか。性欲は実はある。
子供を作れるって話はないが、そういう話はよく聞かされた。
まあ、軍生活してるし、騎士団でそれは切っても切り離せない物があるのを知っているが、一応俺は女だから男の一方的な行為で女性を傷付けるのは許せないので、きちんと教えてくれそうな友人を探していたのだ。
それにしても、
「俺もまだまだだな……」
弟の友人を素直に喜べないな。
「俺もブラコンだな……」
ついつい苦笑いしてしまう。
「それにしても……」
デカくなったよな。
会った時は俺の腰ぐらいだったのに――。
「プリーメラ」
シュトルツが声を掛けてくる。
「――何の用だ」
不機嫌になるのも無理もない。相性が悪いのだ。昔から。
「俺をそっちの名で呼ぶなって言ってんだろ!!」
「何反抗期みたいな事を言ってんですか」
「他の奴らはいいが、お前は嫌だ。その名で呼ばれて散々女らしく振舞えと説教してきたからな」
エーリヒも俺をプリーメラで呼ぶガキにならないが、シュトルツには裏がありそうで気に入らない。
「第一。俺の名前がフリューゲルと聞いた時に男だと勘違いして男として教育してきたのはお前だろ」
「うっ……!!」
図星だったので、言い澱む。
「そっ、それはともかく」
ごほんっ
咳き込んで誤魔化すように、
「ヒメルの能力は顕現しましたか?」
問われて、
「いや……」
象徴の持つ能力が見当たらない。
「そうですか……」
シュトルツが考え込む。
「プリーメラ」
「何だよ…」
だからその名で呼ぶなよ。
「――象徴の力はもしかしたら……《玉座》に関係あるのでは」
「……あいつは《盾》だぞ」
お前の言う《玉座》じゃない。そう返すとシュトルツが、
「ですが、彼は、《玉座》です」
「……今更何を言い出すんだ?」
不愉快だとばかりに舌打ちすると、
「いえ……エドワードの弟の様に分かりにくい能力ならいいですが」
もしそうでは何のなら気を付けてください。
「忠告か……」
「――ええ。そうです」
やや表情を曇らせて、
「私もカイゼルの事は忘れてないですから」
その言葉に、
「兄貴の能力って……」
「はい?」
「どんなのだったんだ?」
シュトルツは迷うように視線を泳がせて、
「感情を…」
「うんっ?」
「感情を操るように先導する物でした。――《玉座》の名を持つ者はその力を持っているのが多いです」
感情……。
「人の感情を操るか……」
それは、
「やだな……」
象徴は人の心で生まれるのにその心を操るのは。
「その力はないといいな」
「――そうですね」
そうじゃない事を祈ります。
シュトルツの言葉に、
「………」
普段は受け入れたくないが、今は素直に受け止めた。
リヒトの能力はいつ分かるか不明です。




