70話 《寄り添う者》。警告を受ける
烏丸は腹黒です
「烏丸」
会談――その前哨戦かも知れないが――の顔合わせも終わって、控室に向かうと――これもまた無から生まれた空間だ――大君が呼び掛けてくる。
「何故。彼の国を次の隠れ蓑に選んだの?」
尋ねる言葉に、
「大君もお気に召していましたけど」
「あの象徴はいいと思ったけど」
あの国の情報も集めた。
「王は女性軽視発言をして、戦下手だと」
それで隠れ蓑にして大丈夫なのかという問い掛けに。
「ええ。ですが、明言しているだけましでしょう」
敬意を持っているふりをしてこちらを侮っている者も多い。それに比べたらまだましだ。
「隠れ蓑にしようと思ったのはあの象徴がいたからです」
「……月の方は守りに適しては居ましたが」
「ええ。だからです」
にこやかに微笑み。
「あの王は自国の象徴に対しての劣等感で女性軽視。戦下手になっていますが、内政は優れているでしょう。じゃなければ、あれだけの災害での被害があれだけで済むとは思えません」
二次災害は怖いものですよ。
「あの象徴は守ると判断したらどこまでも守るとするお人好しさが見え隠れしてます。――防衛特化の象徴の守る存在認識は大きな武器ですよ」
くすくす
「それだけではないみたいだけど」
「ええ。お見事です」
お見通しで、さすが大君。
「あの象徴達はどちらも若い。この場に集まった者達は、私達を一方的に利用しようとする腹黒い狸達が多いようですが、そこまで動き回らないと思われます」
誠意という言葉が詭弁な方々が多そうですが、あの象徴達は自分達の欲望で一方的に食い物にしないでしょう。
「鳥居が壊れた時は一方的に蹂躙も覚悟してましたが、国同士が見張り合いをしますし、飛びぬけて我が国に危害を加えないでしょう。それに万が一の時の盾になりそうですし」
「……」
大君は黙っている。
「大君……」
「月の方は大丈夫と言えるが、もう一人はそう言えない」
大君の神託。
動きを止め、じっと大君を見る。
「運命は彼の者を望まぬ形に変貌させる。そこで見えるのは火の海……」
どの神のお告げか。こんな異郷まで大君に神託を送れるのは。
「――烏丸。侮るな」
大君の眼差しが真っ直ぐ向けられる――黒い黒曜石の様な瞳が紫色に染まっている。
(神が降られている)
今の大君は大君ではなく、大君の身体を借りている神のそれ。
「肝に免じておきます」
告げるとすっと瞳が紫から黒に戻る。
神が降るのは体力の消耗が激しいので、大君はすっと、意識を失って倒れそうになる。
その大君の身体を支えて、
「運命。ですか……」
もう一人の象徴を思い浮かべる。
おそらく神地の象徴でも自分と兄しか気づかないだろうが、彼の者の本質は修羅の道。それを月の者――剣の名を持つ象徴が抑え込んでいる。
その本質が抑えられているから象徴としての力が出現していないのだろうが。
「あの者の本質はおそらく……」
覇道を進む《玉座》。
「一歩間違えれば巻き込まれますね」
だが、それも含めて、今の我が国に都合が良いのもまた事実だった。
大君は神を下ろせるのも大君になる基準です




