7話 **。感情に振り回される
リヒトは4,5歳くらいだと思って下さい
「うわっ~!!」
馬に乗せられて森を抜ける。
「いい眺めだろう」
森を出るなら見せないとな。
高台。
眼下にはさっきまでいた森が広がっている。
「四方を森に囲まれた国。それが俺らの国《エーヴィヒ公国》」
国の名前を今聞かされた。
「エーヴィヒ?」
「……永遠という意味だ。俺らはかつてとある大国の騎士団とその家族だったんだけど、外の戦争に言っている間に国に内乱が起きて帰れなくなったんだ」
遠くを見つめる眼差し。
「安住の地を探して彷徨い。やっと見つけたのは四方を森に囲まれた土地。そこで慣れない手つきで一から土地を使って生活できる環境を整えた。――今じゃその騎士団の団長が大公になっている」
王と名乗っても良かったけど、かつては王を抱いた騎士達。名乗るのに抵抗があったんだ。
昔話を騎乗で教えてくれる。
「永遠……」
「実際に永遠なんて、ないだろうけどな」
丁度夕日が沈んでいくのが見える。
「綺麗……」
「もしかしたら、こうやって感動する心は永遠かもしれないな……」
どこかで誰かが何かに感動する。それは続いていく――。
「永遠か……」
僕には遠い話だ。
「さてと、景色に感動したところで。野宿の用意するか」
馬から降りて、すたすたと焚火の用意をする。
「リヒト。今からお前に任務を言い渡す」
「任務?」
「返事はJaだ」
「やっ、Ja!!」
「よしっ、いい返事だ」
褒められた。
満面の笑みで告げられるとドキドキと心臓が高鳴る。
――怖い印象が強かったので、こんな一面を見せられて戸惑う。
「……!!」
嬉しいやら気恥ずかしいやらで顔が赤くなる。
「おっ、照れてんのか。可愛いな」
ぐりぐり
頭を力一杯撫でられる。
ますます恥ずかしくてとっさにその手を払い除ける。
「ふ~ん。照れちゃって」
ニヤニヤ
「……悪趣味」
前言撤回。この人怖いんじゃない。性格悪いんだ。
「まっ、悪かったな」
ぽんっ
軽く頭を叩かれる。
「俺が戻ってくるまで火の番だ。――出来るな」
火の番。
『坊主寒いだろう。もっとこっちに来い』
『温かいスープだよ。お飲み』
優しく声を掛けてくれた人。
……もう会えない人達。
「………」
黙ってしまった僕に気付いて頭を撫でる。
「出来るよな。――頼んだぞ」
告げられて、考えて、
「うっ、うん」
頷く。
「よし。待ってる」
あっという間に姿が消える。馬を置いて……。
「どこに行ったんだろう?」
馬に尋ねても答えない。もそもそと草を食べている。
「……忙しない人だな」
一か所に留まっていない気がする。
ぱちぱち
爆ぜる音をぼんやりと聞いていると、一人取り残されたような焦燥感に襲われる。
馬が居るから大丈夫だ。捨てられてない。
そう思うのに怖くて不安で……。
(早く)
膝を抱えるように丸くなって、
(早く帰ってきて)
置いてかないで、一人にしないで。
「早く……」
がさがさ
「いや~。大量大量」
魚をたくさん連れて戻ってくるルーデル。
「――遅い!!」
叫んでいた。
目に涙を浮かべていた。
「リヒト…」
「置いてかれたかと思った。また捨てられたと…」
拳を作ってルーデルを叩く。
「魚を捕らえるのなら…食糧を探しに行くなら…そう言ってよ!! もう、帰ってこないかと……」
涙腺は壊れた。
恥ずかしいと思いながら涙は止まらない。
「そっか…」
抱き寄せてくる腕。鎧越しで痛くて冷たかったけど、触れてくれる感触。
「一人じゃないってこういう事なんだな……」
何かに気付いたというか初めて知ったというような表情。
「ああ、悪かった」
謝ってくる存在。
「悪かったから。なっ」
そろそろ泣き止め。
「む…りぃ……」
その返答に参ったなと魚を持っているその人。
ぽんぽん
「人間らしくなって…喜べばいいのか困ればいいのか……複雑だな」
苦笑いを浮かべているが、その意味はよく分からなかった。
鎧が当たって冷たかった。
これ覚えておいてください。