55話 《盾》。神地からの対談の話を聞かされる
各国に襲い掛かっていた自然災害は、ある意味神地に示威行為。いや、そういう呪いかな。神地が怒りを鎮めると自然に収まります。
……国は落ち着いてきた。
神地との話し合いをした事での自然災害が納まったとの話だが、神地にそこまでの力があるのがまだに理解出来ない。
「――神地の象徴と王が、会談を望んでいる」
陛下の言葉。
王の執務室。
相変わらず王は姉さんに話す気が無いのだろう。姉さんをここに呼んでいない。
「神地の王は女人らしいな」
信じられない事に。
「――陛下。言葉を慎んでください。女王は数こそ少ないですが、近隣の国にもいましたよ」
有名なのはイーシュラットの女王だろう。俺が名前が分からない時に偶然会ったあの人はそうは見えなかったが名君だった。
あの時代は名君が多かったな。そう言えば。
「ああ。――そうだったな。で」
くしゃっ
その会談の申し込みをしていた書状らしき物――質の良い紙だ。こんな質の良い紙を見た事がない――をぐしゃぐしゃにして、
「公平性を出すために中央の地を使いたいと申してきたが、その中央の地と言うのは知っているか?」
中央の地?
「いえ…。存じません」
そう告げると舌打ち一つ。
「アレに聞くしかないか……」
アレと言うのは姉さんだろうな。
心底不満そうだ。
「陛下……姉も象徴です」
告げると、
「分かっている!!」
分かっているけど。認めたくない。か……。
「じゃあ、俺ばかりではなく姉もここに呼んでください。――第一」
一度区切り。
「俺よりも姉の方が象徴としては長生きしてますよ」
そう告げると、
「………そうだったな」
舌打ち交じりに、
「フリューゲルを呼んで来いっ!!」
部下に命じて、
ばたばたばた
部下の去っていく足音を聞き、
「――だが、すでに象徴が居るのに別の象徴が居るというのは、象徴の世代交代じゃないのか?」
その言葉に、
「っ……⁉」
そうではないと反論しそうになった。
(――言えない)
もう俺の…俺が生まれたきっかけを知っている者は存命していない。
俺の象徴名が《戦う玉座の盾》。《盾》ばかり強調されているが、本質は《玉座》の方であり、
(戦乱を起こす大国の宿命なんて言われているなんて……)
姉さんと対であるからこそ。
姉さんと言う象徴が居るからこそ、その呪いの様な名の力を忘れられているのに。
こんこん
昏い考えに沈んでいきそうになったのを救い上げるようにノックされる。
「――フリューゲルです」
「入れ」
「失礼します」
姉が入ってくる。
「陛下。お呼びと聞きました……リヒト?」
すっ
伸ばされる手。
額に触れる温もり。
「どうした? 顔色が悪いぞ」
案じる声。
「姉さん……。いや、姉貴」
どうして分かったんだろう。
「何でもない」
そう。もう大丈夫。
「……そうか」
なら、いい。
そう判断して、
「陛下御用は?」
「ああ。それは……」
俺に来た内容をそのまま告げると、
「姉さん?」
姉さんは考え込んでいる。
「……これはおそらく、神地が認識している国全てに配られてますね」
表情が硬い。
「フリューゲル?」
「中央の地と言うのは……」
姉さんが地図を手にする。
――地図を広げ、ある場所を指さす。
その地はリンデンの南。
海しかない。
「何もないではないか!?」
「――いえ、ここに島があるんです」
指差す。
「俺も実際に見た事もありませんが、不可侵の島。この世界の最初の大陸の成れの果て。――俺はそう聞かされました」
最初の大陸……?
「象徴が居なかった頃の大陸って事か…?」
以前聞かされた。世界が崩壊してその後象徴が生まれたと。
「ああ。――その滅んだ世界の遺跡だ」
姉さんは顎に手をやって、
「神地…戦争をするつもりか?」
ぼそっ
姉さんの小さい声は、幸い陛下に届かなかった。
中央の地と言うのは神地。リンデン。ラサニエルの国に囲まれている海にあります。
因みにイーシュラット。ラーセロ(カナリアの国)アルシャナ(マーレ、テッラの国)とは違う場所です。




