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ニンギョウタチの物語  作者: 高月水都
幼少期。《剣》に出会う
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5話  《剣》。腐れ縁に会いに行く

象徴がいっぱい出てます。

「よっ、久しぶり」

 開いてある窓から身を乗り出して中に入る。


「……ドアから入りなさいといつもおっしゃってると思いましたが」

 片眼鏡を付けた男性が溜息交じりに叱り付けてくる。


「なら、防犯にもう少し気を付けとけ。こんないつでも入れる状態にするからだ」

「――何、自分を正当化するんですか」

 呆れたと告げてくるそいつににやりと笑う。が、


「フリューゲル!! また窓から入ってきたのね!!」

 モップを持って棒術の様に攻撃をしてくるメイド。

 そのそばではあわあわと怯えて、物陰に隠れるメイドも居る。

「よっ! 久しぶり。ジェシカ。と、マーレちゃん♡」

「お久しぶりね。まあ、今日が最後の日だからお別れも済ましておきましょうか」

「おっ、おっ、お久しぶり……です」

「ってか、まだ、こいつのメイドしてたんだ。マーレちゃんは。こいつも悪趣味だな」

 攻撃を避けながらの軽口。


「黙らっしゃい!!」

 不快気に眉を顰めての発言。

 ――禁句なのだ。いろんな意味で。


「ってか、一度で懲りただろう。性別を確認してから用意しろよ」

「何を言ってんのよ!! マーレちゃんは男の娘だからメイド服を着てもいいのよ。あたしはその判断は間違っていないと思うわよ!! むしろ尊敬する」

 おいっ、ジェシカ。それはどうなんだ。


 お前の尊敬する人が止めを刺されて倒れてるぞ。


「きゃあ!! 大丈夫ですか!? シュトルツさん!!」

 ジェシカが慌てて揺さぶる。

 ――因みに戦闘はジェシカの持っていたモップを鞭で動きを封じての終了だ。


「起きて下さい!! シュトルツさんが居ないと萌え文化という世界の救済が出来なくなるんですよ!!」

 いや、いらん。そんな世界の救済。


「……あいつ。病気悪化してない?」

「以前は知りませんけど。僕の男物の服は一応シュトルツさんが用意してくださったのが消えていて……」

 メイド服しか着るものが用意されないんです。

 しくしくと涙を流して訴えるマーレ。


「お前も大変だな~」

 ついシュトルツの同情してしまう。

「貴方に言われたくないです」

 まあ、そうだよな。


「マーレちゃんは似合ってるからジェシカに同意するけど」

「同意しないで下さい!!」

「そうだよ!! 僕は女装を止めたい。ナンパしてもいつも失敗してるんだから!!」

 そりゃ、メイド服でナンパしていたら失敗するよな。


「何言ってんの!! マーレちゃんは男の娘なんだから女の子をナンパする必要ありません!! 男性にナンパされてそのまま色街に…」

 じゅるりっ

 おいっ、ジェシカ。今不穏な事言わなかったか⁉


「どうしてこうなったんでしょう……」

「それはこっちが聞きたい」

 お前が育てたんだろう。ジェシカもマーレも。


「……貴方もですよ」

「育てられた覚えはないけどな」

 きっぱりと断言する。


「まあ、それはともかく。――新しい象徴ですか…」

「そっ。生み出した人間が自覚無かったから口減らしに捨てられてた。――そういうのってあったか?」

 見た目の割りに――ちなみに象徴は大体20代で成長は止まる。俺やマーレ。ジェシカは成長中で10代だったりする――爺なお前なら知ってるだろうとシュトルツに尋ねると、

「爺は余分です。――口減らしですか。そういうのは人知れず消えますからね。――象徴として歓迎されなかった例は貴方が良く知ってるでしょう」

「………」


 銀色の髪。深紅の瞳。


 象徴として求めた者達は金色の神に緑の瞳ばっかりだったのに誕生したのは自分。

 色素欠乏症アルビノとして生まれた出来損ない。


 それなのに名前は《守るために戦う剣》だった。


「……象徴も最近出現は無かったと思いますよ。国の方針が変わったり、どこかの国が滅んで新たな国が出来ると出現しますが、そこまでの争いはここ最近起きてませんからね」

「国基準なのか? 象徴って?」

「――国内で象徴が多く居たら纏まる物も纏まりませんよ。私達の国はそれで滅んだでしょう」

「………」

 かつて多くの象徴が居た大国。


「――皮肉なものだな。俺と言う出来損ないの象徴を掲げていた騎士団とお前という代々王の側近を務めていたお前のとこしか残らなかったんだからな」

 他はすべて滅んだ。


 本来なら生まれた年月や出身としての格の違いが出る象徴同士なのにそういう共通点だけで気が付いたら腐れ縁になっていた。


「その象徴の名は分からないのですか?」

「ああ。さっぱりだ。象徴の自覚もなかったからな」

 だから何とかならないか相談してるんだけど。

 そう伝えると、シュトルツはしばらく考えて、

「――ムズィーク帝国。その王族の生き残りが居るのではないかと噂があります」

 かつて在籍していた国。

 ――内乱で滅んだ国。


「プリ-メラ」

 上品に紅茶を飲んでいたシュトルツがこちらを見て、

「もし、その子が《玉座》を持つ名であるのなら。わたくしに引き渡しなさい」

「はあっ⁉」

 なんだそりゃ⁉

「《玉座》の名を持つ者には因果が巡ります。そして末路も悲惨です。わたくしの所に居ればそれ相応の教育を施してそれを最小限に――」

「――断る!!」

「プリーメラ!!」

 がん

 叩き付けた拳。


「お前に任せて兄上の二の舞にしろと言うのかっ!!」

 怒りの宿して叫ぶ。


 忘れられない。あの人の末路を。


「《玉座》を見捨てて保身に走ったお前なんて当てに出来ない!!」

「……」

 シュトルツは応えない。


「《玉座を支える錫杖しゃくじょう》。お前には渡せない」

「なら、貴方が守るつもりですか。《守るために戦う剣》」

「当然だ。俺は守る者だ。あいつの込められた名が何であれ守る」



 沈黙が続く。


「…イーシュラットに行くんですね」

「ああ」

「それがいいです。あそこはその手の事に強い」

 先に口を開いたのはシュトルツだった。

「ああ。そうする」

 それだけ言うと窓枠を飛び越える。


「――邪魔したな」

「……今度はドアからお入りなさい。その時は最高のお持て成しをしますよ」

 その言葉に手を振って応じるとすぐに馬に乗る。



「シュトルツさん……」

 残された二人のメイドは――一人はメイドを止め差させたいが――こちらを窺うように見ている。

「――わたくしもまだまだですね」

 あの子のまだ塞がって無い傷に触れてしまいました。


 自嘲気にシュトルツは笑う。


 その彼も忘れたと思っていた痛みだった。


 ムズィーク王国。

 それはまだ忘れられない大きな痛みだった。

 


呼び方

部下たち「ルーデル卿」

ジェシカとか知り合い「フリューゲル」

シュトルツ「プリーメラ」


さてその呼び方の意味は……。

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