44話 鴉は新たな時間の流れに構える
あっ、この象徴の名前出すの忘れてた。
鳥居を壊された―――。
それを目の当たりにして兄弟姉妹の中で冷静沈着の部類だった彼はその冷静さを失い。
「なんて事を―――!!」
叫んでしまった。
「よしっ!! これで君達を閉じ込めていたモノも無くなったんだぞ!!」
悪びれる事も無く、言い切る若い象徴。
「痴れ者が……!!」
その言葉に合わせるように津波が起きる。
「マイケル!!」
船を襲う大波。舵捌きが得意な船員が波に抵抗しようとするが、上手くいかない。
「みんな。何かに摑まるんだ!!」
マイケルが叫ぶのに合わせて船の至る所で掴まる船員。
「仲兄」
「こちらです!!」
そんな矢先、再び八咫鴉に変化した――それにしては大きさが違うが――虎を足で掴んで飛び立ってしまう。
「わぉ! 化け物にまたなったぞ!! やっぱり、魔物なんだな!!」
退治しないと。
船の柱に摑まりながら叫ぶと海水が口の中に入ってくる。その辛さに顔を顰めているのを空の上の八咫鴉と虎は眺める。
「海坊主さん……」
その鴉の近くに現れたのは巨人。
無事か?
目が問い掛けてくる。
「はい。わたしも弟も無事です」
そう告げるとなら良かったと目を細める海坊主。
「仲兄……」
虎は泣き出す。
「泣かないで下さい虎夏」
今は撫でられないんですよ。優しく慰めて、
「海坊主さん。わたし達は国に戻ります。緊急事態ですので」
海坊主さんもこの場から去った方がいいのでと告げると大丈夫だと首を振られる。
足止めなら出来る。
そう言われた気がした。
「……なら、お願いします」
そう告げると鴉は陸に向かって飛んでいく。
海に浮かぶ島国――天都。その陸地に降り立つとすぐに人の姿に戻る。
人の姿に戻ると心配そうにこちらに向かってくる人々。
「すぐに伝令を」
命じる。
「――分かりました」
たまたま近くにいた青年が答える。その青年の近くには6本足の馬。
青年はその馬に乗ると飛んでいるかと錯覚する勢いで馬を走らせる。
馬の一足が街を跳び越えるので、あながち間違っていないだろう。
「――御付き様。今治します」
ひょこひょこと紅い着物の少女が近付いて虎と鴉の傷に触れる。
その少女の傍には、たくさんの手を持つ存在。
少女が触れるとその存在の掌から大きな目が浮かび上がり、目から涙を流す。
その雫が少女の手を伝い、二人の傷を癒していく。
「ありがとうございます」
鴉から人の姿になって礼を述べると少女は顔を赤らめてはにかむように笑う。
しばらくすると空を飛ぶ牛車がこちらに向かってのが見えてくる。
それが自分達を迎えに来た者なのは周知の事実だ。
「虎夏」
「ああ…少し世話になるんだ。です」
「その方がいいでしょうね。貴方の国はまだ若い方ですからあなたのその状態で冷静に対応できるとは思えませんから」
そう告げると、
「烏丸様。お迎えに馳せ参じました」
牛車から降りてきた男性が膝を付く。
「――ありがとうございます」
天都の象徴――烏丸忠臣はその迎えに来た男性に微笑み礼を述べた。
取り敢えず人外に突っ込んでください。




