34話 《剣》。王の元でその名を聞く
一応ドイツ語のつもりですが、うろ覚えです。
すうすう
「……静かになったと思ったら」
眠っていたか。
エーヴィヒの城。
そこで王の報告中に隣で座っていたリヒトがもたれるように眠っている。
「冒険だったからな。生まれたての象徴にしたら」
王が笑う。
「コンラート」
そんな王に名で呼び掛ける。
「――けしかけたのはお前だろ」
敵意。
それに近い何かを放ち、仕える主君に声を掛ける。
「正解」
くすっ
「何の為だ」
「分かっているだろう。フリューゲル」
「………」
ああ。分かってる。
「こいつに戦場は早い!!」
「それでも、自分の進退の事だ。見せた方がいいだろう。――覚悟を付けるために」
………………。
「正論だな」
何も言えない。
「口で貴女に勝てるようになったのは嬉しいですね」
「そんなに嬉しい事かぁ?」
「嬉しいですよ。――口車に乗せられて王にさせられたんですから」
「………恨んでいるのか?」
あの時。王以外の道を塞いでしまった事を。
「いえ…」
彼は、音楽家になりたかった。
だが、親友の命と引き換えになら好きな道を選んでいいと告げられて親友の命を取った。
俺がそう脅して選ばせた。
自分よりも弟の方が相応しい。だから、王にならないと叫んでいたのに、その脅しに彼は負けた。
――もし、彼が夢を選んでも命は奪うつもりはなかった。必要以上の命を奪う事しない主義だが、そう脅したのだ。
「私の夢は、所詮夢でしたから」
王としての英才教育。
その時になって知った。気付いた。
――弟は王の才能がない事に。
「父は弟を王にしなかったでしょう。そして、私が夢を叶えるか父が私を王にするかで、確実に流れてはいけない血が流れた」
「………そこで、そう考えられるのがお前が王として相応しい証拠だった」
こいつの弟は、自分の采配一つでどれだけ血が流れるか、民が苦しむかが見えてなかった。
「今は分かってますよ。だからこそ、早めに動きたかったんです」
後の民の為に。
「お前は俺よりも象徴向きだな」
本当は象徴じゃないのか。
そんな軽口を告げると。
「そうですね。――象徴になりたいと思った事はありますよ」
「なってどうする」
どんどん行為を持った人間に先立たれて悲しいものだぞ。
「子供を作らなくていいから。ですかね」
「お前が言うな」
独身貴族を謳歌しているくせに。
「さっさと結婚して後継者を作れ。いつまでも独り身だと同性愛者疑惑が出るぞ」
別に偏見はないが。
ジェシカ(あいつ)とかアイツとかアイツの餌食になっても知らんぞ。
「私にとっては民が子供ですから」
本当の子が出来て民を第一に思えなくなっても困りますし。
「それに、愛情もないのに子供を作る道具の様にされる伴侶が哀れでしょう」
「………想い人はいないのか?」
尋ねると真っ直ぐこちらを見てくる。
……何か悪い事言ったか?
「――いますよ。ずっと」
知らなかったな。
「ならその人を伴侶にすれば……ああ。本人の同意が必要か」
「無理な相手ですよ。――でしたので」
一部聞き取れなかったな。
「なんて言ったんだ?」
聞こえなかったけど?
「いえ、――彼の名はどうしましょう?」
リヒトは仮の名前でしょう。
話を逸らされた。まあ、言いたい話題でもないか。
「お前が付ければいい」
俺の名もそうやって決めたし。他の象徴もそうだ。
「そうですか。――なら」
コンラートは考え込む。
「ヒメル」
「空?」
何で空?
「鳥が羽搏くのなら空が必要でしょう」
鳥。
「ヒメル・グランディア・ルーデル。かっこつけすぎでしょうかね」
「……空に輝く。か……」
確かにかっこつけすぎだ。
だけど。
「まあ、いいんじゃない」
それくらいなら。
「改めて。よろしくな弟」
「まあ、愛称でリヒト呼びのままの方が本人は喜びそうだけどね」
「それはリヒト次第かな」
スヤスヤ眠りリヒトを見つめ、王と象徴は優しい慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
これから先公ではヒメル。フリューゲルはリヒト呼びになります。紛らわしくてすみません。




