33話 《剣》。誓いを口にする
花言葉をどこで見たのか覚えてないけど。偶然希望という意味で驚きました。
リヒトが降りて来た時。その後ろに老人を見かけて知らず知らずに膝をついて礼を示した。
「この子はエーヴィヒの象徴としておくといい」
老人――レーゲンブルネンの王が告げると、
「――お待ちください!!」
慌てて意義を申し付ける。
「彼は《玉座》です!! しかるべき地位でしかるべき教育を」
敗戦国が何を言っているのやら。
「――リヒトは、エーヴィヒを選んだ」
王が宣言する。
「ですがっ!!」
「この子は《玉座》であるよりも《盾》で……《剣》の対でいる事を望んでいる」
本人の意向を尊重するべきだろう。
「………」
反論できなくなっているのを見てざまぁみろと思うが顔に出さない。
「……分かりました」
渋々と頷くシュトルツを見ると、
「プリーメラ殿」
王が声を掛けてくる。
「はっ」
「大事にしなさい」
彼がその名に潰されない様に。
「させません」
断言。
「そうですね……」
じっと見られると緊張する。
「桜草(プリ―メル)」
不意に誰にも聞こえないように耳元で懐かしい呼ばれ方をする。
「……知っているんですか?」
正直驚いた。
小声で、どれもまた周りに聞こえないように呟く。
自分の名は、桜草と翼。その意味を持っている。
「分かりますよ。――桜草ぐらい」
翼の意味合いの方が印象強くなってしまっていますけど。
頷かれて告げられる。
「……」
騎士団時代の名で、象徴でも古株しか覚えてないのに――。
(エーリヒは古株だからな。そこから聞いたかな)
戦場で戦うさまが鳥の羽搏きの様だという事で時の騎士団団長に付けられた名。
だが、かつて桜草――希望の意味を持つ花の名で呼ばれる事が多かった。
ルーデルは当時の団長の姓。
音が悪いからプリ―メルからプリーメラに改名した。
フリューゲル・プリ―メラ・ルーデル
それが自分の名の由来。
「希望になってあげなさい」
彼が迷い苦しまない指針として、
「………」
「かつて、帰る場所を失った者達に希望を失わせずに安住の地を見つけた貴方だから彼を任せていいと判断しました」
貴方の民は、戦争を望んでいないでしょう?
「はい」
断言できる。
防衛戦はするが、必要以上の戦争はしない。させない。
「私は見届けられませんが」
彼が《玉座》の名に潰されないように――。
「――もとよりそのつもりです」
拾った時に覚悟した。
王は微笑む。
「――リヒト。帰るぞ」
その微笑みを背に受けて、戦場を後にする。
「はい」
「勝手に来たお仕置きをしないとな」
「えっ………!!」
そうきっぱりと告げると、蒼白になるリヒト。
「……」
背後に視線。
何も口出さないが、射殺そうとする感覚。
(……《死神》か…)
あいつがここまで睨んでくるのは珍しい。いや、違うか。
――戦争とかを遊び感覚でしているのにその結果を良く思ってないなんて事はなかったのに。
警戒した方がいいな。
王に進言しないと。
リヒトを守るという誓い。それは……。




