31話 《剣》。戦勝国の権利を口にする
ジェシカのお国の名を出せました。
ついでに象徴名も。
リヒトが去ったのを確認すると、
「――さてと」
足をテーブルの上において、
「さっさと話でもするか」
「――はしたないですよ」
テーブルの上の足を一瞥して叱り付けるシュトルツ。
「ああ。――悪いな」
言いつつも直さない。
「フリューゲル!! シュトルツさんの言う事を聞きなさい!!」
モップで攻撃をしようとするジェシカの攻撃を鞭で抑え、
「何かあるとすぐモップだな!!」
ってか、どこから出したんだ?
「それは貴女もでしょう!!」
何かあるとすぐ鞭を出して!!
文句を言ってくるジェシカ。相変わらずシュトルツ信者だな。
「――ジェシカちゃん。フリュー。じゃれ合いはいい加減にしておき」
「じゃれ合いで済ます貴方も凄いですね……」
呆れたように告げるシュトルツ。
「ってか、本来ならお前が抑える立場なんだぞ。分かってるのか」
エドワードが注意する。
「……何でですか?」
私には関係ないでしょう。
「そう言えるから負けるんだ」
何時までも昔の威光を振りかざしているのに、肝心な時には傍観して動かない。
情報を最も有効に手に入るのにそれを上手く活用できない。だから、
「――だから、没落するんだ」
冷たい声が漏れてしまう。
「プリーメラ!!」
怒りを顕わにするシュトルツ。お綺麗に飾った顔よりもそちらの方がいい顔つきだ。
「――プリーメラ。挑発はやめろ。シュトルツお前も乗るな」
エーリヒが声を掛ける。
この場はエーリヒが指揮している。シュトルツ(こいつ)は気に入らないが、エーリヒには礼儀を払う気があるので、大人しくする。
「プリーメラ。足を下ろせ。質の良い物だから大事に使いたい」
「ああ。悪い」
返事をして足を下ろす。
「……私の時と態度はかなり違いますね」
「当然だろ」
お前に尽くす礼節はない。
「フリューゲル!!」
「ジェシカ」
怒りで攻撃しようとするジェシカをエーリヒは未然に止める。
「プリーメラも」
本題に入る。いつまでも遊んでいるな。
「――で、戦勝国はエーヴィヒ。イーシュラット。ラーセロ。アルシャナ」
フリューゲル。エドワード。カナリア。マーレ。テッラ。戦勝国と呼ばれた国の象徴にエーリヒは視線を送る。
「そして、敗戦国。ノーテン。リンデン。フルーラ……珍しく勝ち馬に乗れなかったな」
「煩いよ!!」
「――で、ハルセディ。……ジェシカ。いい加減自国に帰れ」
「エーリヒさん……」
「人質という事で来てたんだろうが、没落した国にいつまでも居る必要がない。《気ままな風》がいつまでも気まますぎるのも迷惑な話だ」
エーリヒの苦言。
「で、リンデン」
「イワンでいいよ。アインバッハ君」
「……リンデンはいい加減エーヴィヒを侵攻するのを止めておけ。国も民も疲弊しているだろうに」
エーリヒの忠告というか警告に、
「何言ってんの? 弱ってるから奪うんだよ」
何がおかしいの?
「奪おうとしても成果はないし、それよりも国内で出来る事があるだろう」
何で、それをしない。
「――アインバッハ君はいい象徴だね」
にこにこ
「絶望から生まれた象徴である僕と大違いだ」
殺気。
「――生まれはどうであれ」
その殺意を物ともせずに、
「民を導くのは象徴の役割だ」
お前はそれを放棄しているに過ぎない。
エーリヒの鋭利な刃物のような言葉は珍しく厚顔無恥な《死神》に傷を与えたようで顔を歪める。
ざまぁみろ
それを面白がり、
「じゃあ、俺の権利を主張する」
リンデンに向かって、
「――うちの国との境目。そこをもらう。お前が活用できてないないだけで、あそこは農耕に向いてるからな」
地図を指さす。
「で、ノーテンは土地はいらねえ。面倒なだけだ」
防衛するのも不便だ。
「じゃあ、俺はフルーラにある宝物一つでチャラにしてやる」
イーシュラットは島国。余分な土地はいらない。
「宝物?」
「ああ。――幻獣に影響あるのが一つあってな」
「えっ…。マジなのっ⁉」
慌てる敗戦国フルーラの象徴――カシューが声をあげる。
「幻獣って、もしかして、司令に使える道具とかそういう部類の……」
「ああ。幻獣を捕らえる時に使われた道具だ」
「マジかよ……それがあれば、幻獣を使用できるんじゃ……」
「――させないけどな」
幻獣を保護する国故に密漁目的の道具は破棄したいのだろう。――まあ、根本的にフルーラをいたぶるのが好きなのもあるが………。
「アルシャナとラーセロはどうする?」
エーリヒの問い掛けに、
「マーレ……」
「ごっ、ごめんなさい!! ごめんなさい、シュトルツさんっ!!」
「おっ、俺らはマーレを返してもらいたいからそれぐらいで……」
涙目になっているマーレ。そのマーレを少し――あくまで少しだが――庇う様に牙を向くテッラ。
「まあ、後で賠償金を用意してもらうがな」
エーリヒの言葉に、
「ラーセロ……カナリアは?」
「んっ? そやな――」
カナリアから出てくる金額。
それに対して、その場に居た象徴――流石のイワンも――青褪めた。
商人の国を敵にしてはいけない。そう思わされた瞬間だった。
自然の名を持つのが、マーレ。テッラ。ジェシカ。カナリア。一応、イワン。
道具の名を持つのがフリューゲル。リヒト。シュトルツ。
その国の気質を現すのが、エドワード。カシュー。エーリヒになってます。




