23話 《剣》。味方を鼓舞する
今回も《死神》の名前出せない。
落とし穴に落ちるリンデンの兵士達。
貴方見た目より深く怪我をしている者も多く居るだろう。這い上がりたくても後続が続いているから出る事も出来ず、後続もまた落ちていく。
「――あらら」
そんな自軍の動きを見ても彼は動じない。
「丁度いいね」
それどころか。兵が落とし穴で身動き取れないまま。穴を埋めていったのを見て、
「行こっか」
ひひ~ん
ぐしゃっ
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ぐしゃぐしゃっ
ばきっ
落とし穴に堕ちた兵士の上を進む軍団。
響く悲鳴。
「酷い事しやがる」
近くにいた部下がその様を見て青褪めている。
「全くだ」
敬意をもって相手をしろ。
元は騎士団で、長い事流浪をしてきたからこその過酷な環境で過ごしてきた故に、命に敬意を払う事。戦場で戦う仲間を大事にする事を学んできた。
計略を練るが、それも味方の勝利のため。
味方の被害を少なくするため。
それなのに、この光景は信じられない。
落ちた仲間を助けるどころか。その仲間で埋まったとばかりに落とし穴を越えていく。
「《死神》……」
リンデンの象徴。
その残酷さに、人々は怯える。
「――怯むな!!」
雰囲気で蹴落とされる。
そう判断して軍全体に響くように声を張り上げる。
「我らが怯めば、我らの愛する者達が我らよりも苦しい立場に追いやられる!!」
剣を高らかに上げる。
「我らは国を守る者!! 愛する者を守る剣!!」
肩に大鷹が泊まる。
「我らが国を、愛する者を守るのに恐れてどうする!!」
その時、日の光が差し込んでくる。
「剣を構えて戦う意思を見せろ!!」
おおおおおおおおおおおおおおっ!!
鼓舞されて高らかに声をあげる兵達。
「流石ですね」
近くにいた部下が――さっきのとは違うやつ――感心したように告げる。
「そうでもないぞ」
ただ事実を告げただけだ。
「いえ、違います」
「んっ?」
光が差し込んで輝いた白銀の髪。
まるで英雄像さながらの姿で剣を高らかに上げた姿。
その神秘的な……。幻想的な姿を見て兵達は自分達の指揮をしている存在の呼び名を思い出した。
防衛戦特化の守護者。
彼女が居れば負けなし。
そう。自分達には守護者がついいている。
ならば恐れる必要がない。
絶対的な信頼。
その自信が力になり、鼓舞される。
「――我らには守護者がついている!!」
「「「我らには守護者が付いている!!」」」
「我らの勝利が約束されている!!」
「「「我らの勝利は約束されている!!」」」
声が響く。
その声にリンデンの兵士が怯える。
……恐怖で支配し戦場に立たせても最後の最後で戦う意志が強い者によってその恐怖は倍増される。
元々戦場慣れしている者と慣れていない者の格差がある。
数こそ有利であったが、度重なる計略でその差も縮まっている。
よって、その場の空気は完全にエーヴィヒに勝利をもたらそうとしていた。
昔は劣等感しか感じなかったのに今は神秘的と味方を鼓舞するのが皮肉というか……。




