2話 **。《剣》から人外だと知らされる
ノリに乗っているので二話目投稿。……うん。完成させますので安心してください。
手を伸ばす。
届かないのは分かっているけど、伸ばす以外方法が無かった。
『どこの誰か知らないけど、これ以上一緒にいられたら迷惑なのよ』
苛立ったように告げる女性。
『まったく、どこの子かしら』
『聞いて回ったけど、誰も知らないってさ』
流浪の民。
かつて大きな国の王族だったが、国が滅んでしまい、早々に国から逃れた者の生き残り。
安住の地を求めつつも、王族としての誇りが高く。新たな土地で開拓もせずにただ彷徨っているだけの者達は、知らない子供を世話する義理もなく、その子供の正体を知らずに無造作に口減らしに捨てる。
(まって!!)
求められた。
欲された。
だから生まれた。
だから存在するのに。
(まって…!!)
いらないと言われたらどうなるんだろう。
僕は、必要だから存在するのに。
生み出した者がいらないと言うのなら、僕はどうすればいいの。
僕を捨てないで――!!
「あっ……」
ふかふかの寝台。
揺れない部屋。
「ここ。どこ……」
見た事無い風景。
「僕は……」
『――お前には選択肢を与えてやる』
脳裏に声が蘇る。
『このままのたれ死ぬか。俺の手で一思いに死ぬか』
銀色の髪の赤い目をした悪魔。
その悪魔に僕はどう答えたのだろう。
ここは、天国……?
「気付かれましたか?」
扉が開き、一人の壮年の女性が入ってくる。
メイド服と呼ばれる格好に身を包んだその女性は、
「今、ルーデル卿をお呼びします」
しばらくお待ちください。
女性は深々と頭を下げて殺気入ってきたドアから外に出てしまう。
「あっ……?」
いろいろ聞きたい事があったのに聞きそびれてしまった。
それにしても……。
ルーデル卿?
誰の事かと首を傾げてると、
「本当に起きたんだな!!」
「左様でございます」
「分かった。話があるからすぐに向かう。あっ、後…」
「――お食事は用意してあります」
「あっ、そうか。ダンケ」
ばあん
「起きたんだな」
勢い良く開かれた扉。
そこに現れたのは銀色の髪。紅い目の騎士。
あの時の悪魔!!
とっさに近くに置いてあった水差しに手を伸ばし、思いっきり投げる。
殺される。
死にたくない。
起きたばかり。
消える寸前だったという事実を知らないで、動いた事で身体が悲鳴をあげる。
「ったく。乱暴だな」
水差しは届かなかった。
いや、届く前に、悪魔が左手で持った鞭が水差しに絡み付き、勢いが殺され、悪魔の手に落ちる。
「割れたら掃除大変なんだよな。中身は……ああ、空か」
なら良かった。
そう告げると水差しを元の場所に戻す。
「………」
殺されると思った。
殺されてもおかしくない状態だった。
でも…。
「殺さないの……?」
尋ねる。
「生きたいと望んだのはお前だろう」
おかしな事を言うな。
不思議そうに言われてもそんな記憶はない。
「――《守るために戦う剣》」
「はい?」
急に何を言われたんだろう。
「俺の名だ。――お前は?」
僕の…?
「分からない……」
さぁ~。
思い出せない。
僕は誰?
僕は何?
手が不安な心に反応するように消えていく。
おかしい。
人間はこうならないはずだ。
じゃあ、僕は人間じゃないの?
僕は…?
「落ち着け」
気が付いたら頬を手で包まれて、顔を固定される。
紅い目が真っ直ぐに僕を見つめている。
「大丈夫だ」
その言葉に反応するように消えかかっていた手が元に戻る。
「どうやら、自分の事を知らないみたいだな」
悪魔――守るために戦う剣と名乗った青年は、しばらく考えて、
「見てろ」
刃物で腕を深く切る。
流れる紅い血。この人の目と同じ色。
「何をっ!!」
傷を抑えないとこのシーツで…。
慌てて手当てをしようとしたらその傷がみるみる塞がっていく。
「えっ………⁉」
どういう……。
「――俺は人じゃない。人によって生まれ人によって育つ存在」
完全に直った腕を見せて不敵に笑う。
「俺らみたいな存在は人の思いの具現化《象徴》と言われるんだ」
にやり
「その象徴名はさっき名乗ったそれだけど、人間としての名前も一応ある。フリューゲル・プリ―メラ・ルーデル。親しい奴らはフリューゲルっていう」
そう告げて、椅子の背もたれに顔を乗せて座る。
「俺らは象徴。人が求める形の名を得る。名前は自分の魂に刻まれているが、その名は分かるか?」
聞かれて考えるが、
「分からない……」
首を振る。
「そっか。……生み出した人間との繋がりが切れたからだろうな。どうするっかな」
困ったように頭を掻いて、
「――リヒト」
「えっ……?」
「《光》。まあ、取り敢えず、人に認識してもらう事が俺らの一番いい回復方法だ。名前を思い出すまでそれを仮の名で呼んでもらえ。呼ばれるのが一番認識してもらう方法だ」
ぽんっ
柔らかい笑み。
とんとん
「ルーデル卿!! 陛下が火急の要件との事で」
「――分かった」
ったく。また戦争か。
ぶつくさぼやくながらその人は立ち上がる。
「じゃあ、リヒト。帰ってきたら対策考えるから。それまで。そうだな……」
窓を開く。すると飛び込んでくる。大量の鳥。
「こいつらを頼めるか。気が付くと戦場まで付いて来るんだよな」
説明もなく頼んだと告げると、その人は慌ただしく出ていく。
「何だったんだろう…」
呟きつつ、漠然と合った不安が消えている事に気付いた。
ようやく主人公の片割れの名前を出せました。サブタイトルは象徴名で統一していくつもりです。