175話 《寄り添うもの》。子育てをする
久し振りの烏丸さん
かたん
何か音がした。
「大君……」
そこには、まだ幼い主君。
「烏丸……」
夜の闇。
月の光が心細げにその大君の顔を照らす。
「……………こちらに来ますか?」
にこっ
柔らかい笑みを浮かべて、そっと中に招く。
「う……うん」
不安げにそっと中に入ってくる。
そこには敷いたばかりの寝具が一つ。
「怖かったんですね……」
今晩は一緒に寝ましょう。
そう微笑みかけると大君はほっとしたように布団に入る。
「烏丸も」
「はい」
そっと寄り添うように布団に潜る。
すうすう
すぐに規則正しい呼吸が聞こえる。寝入ったのだろう。
ぽんぽん
「気付かなくて申し訳ありません」
幼い少女。
先日大君になったばかりの少女だ。
………………先代は、神に呼ばれた。
大君は神に愛されて、強い神の妻の呼び名。先代は特に愛されていて、早々に天の国に呼ばれた。
――そう、召されたのだ。
「……早すぎる代替わり」
本来なら、もっと時間があったはずだった。
だが、先代の夫である神は愛する妻を地上に留めるのを良しとせずに後継者が見つかると同時に天の国に連れて行った。
幼い次の大君を当代の大君が教育して、《象徴》である自分が補佐する。だが、そんな状況な為にろくな教育も出来ずに代替わりが早すぎたのだ。
「大変でしょうが、頑張りましょう」
本来ならゆっくりとこの天都の大君として学んでいくはずなのに大きな荷物を持たされてしまった少女。
学ぶ事はたくさんある。だけど、大君として行わないといけない事も多く。毎日が辛いだろう。
それでもこの子は弱音を吐かない。
大君としてなすべき事をしているのだ。
「……………でも、今はゆっくり休んでください」
そっと労わるように頭を撫でる。
追い詰めている自分が言うべき事ではない。でも、そう思ってしまう事は事実。
『地獄の業火……』
いつか訪れると予言されたこの国の未来。
天都が国交を開いた時に告げられた。
「…………いつか分からないが」
多くの民が苦しむだろう。
大君の予言に外れはない。
「………種は撒いた」
フリューゲルさんには悪い事をしてしまった。かの国に神を送ったのは外の情報を得るため。そして、もしもの時のために攻撃の手段として切り捨てるため。
神も自分を生んだ人が亡くなった今では切り捨てられることに抵抗はない。
神は血筋ではなくその存在の魂の質で守護するかしないかを決めるのだから。
「でも、出来れば」
その予言はもっと先に……いや、無理だろう。大きに寄り添っていた経験がその時期が近いと告げている。
すうすう
規則正しい安らかな眠り。
「守りますよ」
国を。
大君を。
その為なら、
「私は何でもしますね」
そっと頭を撫でて告げた。
ぼかしてあるけど先代はお亡くなり。神様はヤンデレでした(笑)




