172話 毒の杯
まだ生きてます(笑)
かつんかつんかつん
石段をゆっくりと上がっていく。
ここは、牢獄。
しかも王族やそれに準じる者達を捕らえる為の牢獄。
「…間違っているんだ。騎士であるのに使える者に仕えない国が間違っているんだ。そうさ、僕を捕らえるのが間違っているんだ。すぐに解放されて間違いは正されるんだ……」
ぶつぶつぶつ
ずっと同じ事を繰り返しているというのが門番の報告だ。
「ご気分はいかがですか。――アルベルト殿下」
柵の前に立ち呼び掛ける。
「間違えに気付いたか。そうだ。我らは騎士。仕えるべき者をきちんと見出して仕えるべきであって………」
「――貴方の処刑をお伝えに来ました」
あの時殺しても良かった。
しなかったのは外聞が悪かったのだ。
「安心してください。表向きは兄の死で心を痛めて気鬱の病で倒れたという事にしてありますので」
そう。
「王族暗殺をしたのが王族だと他国に知られるわけにはいきませんので」
微笑むそれが相手により恐怖を与えるなんてこの王子は身をもって体感しただろう。
「ルーデル!!」
がしゃんっ
柵を掴む手。その目は狂気を宿している。
「お前は自分の愚かさが分かってないのかっ!! 騎士団であった我らの悲願。ムズィーク王国の再興をどうしてお前が妨げるっ!!」
「――望んでないからですよ」
切り捨てる。
「民が望まない限り俺はそれに頷けない。かつては王国の騎士団だった。だけど、今は違う」
俺の中にこの国の成り立ちが、生き様が記憶として確かにある。
「この国は騎士の国。ただし、護るべきは辛酸を共に味わった民!! 滅んだ国を王として抱かない」
それが民の選択だ。
「恩知らずがっ!!」
「………恩? 個人的な事を言わせてもらうと。民を蔑ろにして享楽を味わって内乱で滅んだ王族のどこを崇めればいいんだ」
そんなの建前だ。
本当はもっと思う事がある。
兄を救えなかった事。
リヒトを捨てた事。
それらをしたのに栄華を求め、亡霊のように現れるなんて不快でしかない。
がちゃっ
鍵を開けて中に入る。
その手には杯。
「王族としてのお役目をきちんと果たされるといい」
「貴様~っ!!」
抵抗するかつての王族を連れてきた部下が抑え込む。
がぼがぼがぼ
無理やり毒の入った杯を呑ませる。
必死に飲み込まない様に知るが、抵抗も空しく、やがて、力が抜けていく。
「――処分しろ」
「はっ」
部下に命じて檻から出る。
綺麗で真っ直ぐな姉だと思っている弟に見せれない光景。
だが、国を守る。その為に汚れ役も辞さない。
「あいつはそこら辺の判断が甘いからな……」
そんな事は当然と受け入れてもらいたいが、そんな事をするリヒトも見たくないなと思いつつ、新しく王になった陛下に報告に向かう。
気鬱の病で様態が変貌した。リヒトは意味が分からないだろうけど、王には意味が伝わると分かっているから。
「あれはまだ生きているんですね」
誰かの声。
「まあ、近いうちに処分するでしょ。危険分子は残さないだろう」
それがあの出来損ないの《象徴》だ。
「ああ。そうですね。――ムズィークの恥。あんな醜い。見ずぼらしい!!」
「……………」
そんな言葉にそうだなと同意があちこち振るが、その一人は呆れたように溜息を吐く。
「あの出来損ないが、我らの《玉座》を護っていたんであろう」
「――だから、返してもらう」
誰かの言葉。
「そう。我らの悲願の為に」
その言葉に異論はない。
だから――。
『《玉座》。お前は我等を見なかった』
そう命じて《玉座》の反応を確かめたのは自分であったカラー―。
前話とのギャップ……(-_-;)




