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ニンギョウタチの物語  作者: 高月水都
お家騒動。その波乱
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170話 《錫杖》。過去に想いを馳せる

フリューゲルの育ての兄カイゼルさんは本編で出てこないからこれが一番多い出番でしょうね

 ――相変わらずドアから出る事をしない子ですね。

 小言を何度言えばいいんでしょうか。と、溜息を吐いてしまう。


(まあ、仕方ないか……)

 ドアから出入りする事に嫌悪されていた時期が長すぎた。

 いまさら、素直にドアから出入りも出来なくなったのだろう。


 冷遇されていたから――。


「カイゼル……」

 貴方が気に掛けていた妹は今も元気ですよ。

 ふと昔に想いを馳せる。


 ムズィーク王国――そこには多くの象徴が集っていた。


 国には、一人または二人という暗黙の了解――リンデンは別だ――があるが、当時のムズィーク王国には、王家の象徴。宰相の象徴。騎士団の象徴。そして、属国にした国の象徴がひしめき合っていた。


 騎士団も一個騎士団に一人象徴がいて、その数多くの中にフリューゲルは居た。


 ………がりがりに痩せた子だった。

 最初に会った時の事は覚えてない。

 

 騎士団の象徴という塊で会い、その中のどこかに居たのだが、一人ひとり正直なところ顔も覚えていない。


 金髪碧眼。そんなムズィーク王国の民と変わらない外見の象徴。男ばかりの騎士団の象徴の中であの子だけが女の子――もっともそれは後で知ったのだが――。


 ――銀髪紅眼。色彩欠乏症(アルビノ)という風変わりの姿で他の騎士団の象徴に虐められて馴染めていなかった。


 カイゼルがあの子に興味を持ったきっかけは不明だが、王族の象徴であるカイゼルと宰相の家の象徴である自分は共に行動する事が多かったのであの子とよく会うのも必然だった。


 ある日あの子の髪が黒くなっている事があった。

 ぽたぽたぽた

 いや、黒ではない。汚れた水を頭から掛けられて黒に見えてだけだった。


「……どうしたんだ?」

 怯えさせない様に、させない様に慎重にカイゼルが声を掛けた。

 今思えば、面識があっても話す事が無かった自分達の最初の会話がそれだったのだろう。


 びくっ

 怯えたようにこちらを警戒するあの子。

 カイゼルは汚れる事も厭わないであの子の髪を布で拭き取る。


「綺麗なのに……」

 心からの言葉だったのだろう。その言葉に信じられないとあの子は大きく目を見開いたのが印象的だった。


 日の光を浴びてキラキラと光る月の光の様な銀色。

 それが戻ったのを見てカイゼルは微笑む。


「うん。綺麗になったな」

 柔らかく触れていた手。


 ………本当なら宰相家の象徴として格下の()()()()()()

から引き離さないといけない立場だったが、それを忘れていた。


 あまりにもその子が哀れで……カイゼルがとても大事そうに触れていたから――。


「何で、あの象徴に近付いたのですか?」

 侍女に任せればよかったのに。


「――それでは、私は何も知らないままだ」

「カイゼル様?」

「それだ。シュトルツ」

 カイゼルがこちらを見上げる。


 同じくらいに生まれたはずなのに身長に大きく開き……いや、カイゼルはいつまでも子供の姿のままであった。


「私は、何も知らない。国の事も。民の事も……騎士団の事も」

 無知ゆえの停滞。

 彼は皮肉気に笑う。


「そんな象徴である自分が《玉座》だと笑わせる」

「カイゼル様……」

「シュトルツ。以前から思っていたんだ」

 悲しげに、どこか願うように。


「私と君は対等で居たいから様付けを辞めてくれないか」

「ですが……」

「もちろん。他の者が居る時は無理だろうけど、私は君の友でいたい」

「…………」

「君からすれば上司なんだろうけど、このままでは早晩国が滅ぶと思うんだ」

 人が居ないのを確認しているからの危険発言。


「国を治める者でありながら知らない事が多すぎる状況では民は王の言葉を煙たがって壊すだろう」

 だから知りたい。


「私はあの子に優しくしたんじゃないよ」

「カイゼル……」

「あの子を利用しようとして優しくしただけだよ」

 偽悪的に微笑むカイゼル。だけど、

(その優しさにあの子は救われた……)

 それから何度もあの子を助けた。


 他の騎士団の象徴に虐められている時も。

 騎士達や貴族に陰口を叩かれている時も。


 そんなあの子に《フリューゲル》――翼という名を与えたのもカイゼルだった。


 地を這う生き物ではなく、空を目指す強さを持てるようにと――。


 フリューゲルは強くなっていった。

 虐められ、冷遇されていた彼女は、護るモノを得た時その強さが桁違いだというのが分かった。


 防衛特化。

 そんな今までいなかった《象徴》としての強さを見せつけたのだ。


「育て方が悪かったんですけどね……」

 男のように振舞う事になったのは、カイゼルの教え方だった。まあ、その当時シュトルツも弱々しい男の子だと思い込んで男の子としての教育をカイゼルと共にしてしまったのだが。


 あの子が防衛線に言っていた時に起きた内乱。もしかしらあの子のいる騎士団が防衛特化という意味で最強だとバレていたのだろうかあの内乱は。


 王族も……貴族ですらあの騎士団の価値を知らずに辺境に追いやったのだから。


 あの内乱はフリューゲルのいた騎士団が残っていたらおそらくかの国は滅びなかっただろう。それほどの強さを持っていたのだ。

 侵略戦でしか評価しないお国柄で、侵略戦(そっち)での武功はあまりなかったの認識は甘いが。


「かの一族が早々に諦めてくれればいいですが……」

 王族という古い誇りに縋り付いて、自分達の生み出した|《象徴》《ヒメル》を捨てて、その価値に気付いて取り戻しに来る輩――。


 その取り戻す先が護る事に掛けては最強(防衛特化)の所だ。


「弱い騎士団だと未だに古い知識で生きているんでしょうかね」

 私ではなく、フリューゲルを狙うのは。


「世界が荒れますね……」

 これも《玉座》の影響でしょうか……。


「…………」

 カイゼルの二の舞。それだけは阻止したいと国の象徴以外の思念も混じった想いの元――王にフリューゲルからもたらされた情報を伝えに行く事にした。

 


おとんカイゼル

おかんシュトルツ

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