169話 《剣》。昔なじみに忠告する
シュトルツとフリューゲルの関係って。口うるさい父親と反抗期の娘で(笑)
「生き残り……」
「ああ……」
ノーテン。
ノーテンの象徴シュトルツの自宅。
「やはりというべきか……生きていたんですね」
「しかも、いまだに滅んだ国の王族という自覚がありまくり。――悪い方にな」
王族であったそのすでに化石となっている事を誇りとして再興しようとしている輩。
ありもしない幻影を追い掛けて事を起こしている。
「………プリーメラ」
「その名で呼ぶな」
「じゃあ、フリューゲル。――貴方にリヒト……ヒメルを殺せますか?」
「…………………」
沈黙。
それが答え。
「私は言いました。あの子は災いになると」
「それも含めて護ると決めたんだ」
そう答えると溜息を吐かれる。
「かの一族はおそらく自分達の考えを改めない限りヒメルを狙いますよ。彼が《玉座》自分達の一族の妄執で生まれた象徴であるが故に」
「――捨てたのはあいつらなのに」
その価値を知らずに捨てたくせに図々しい。
「そういう時こそ責任転嫁しますからね。自分がした事ではないと」
妄執は受け継ぐのに罪は受け継がないという事かお気楽な事だ。
象徴はそんな妄執で殺されるのに。
「………リヒトの象徴としての力」
「ああ。――時を止めるものですね。ヒメルは自覚ないでしょうけど」
「あの発動条件にあの一族があるとしたら」
「……………」
シュトルツは黙る。
「彼は完全治癒……不老が能力でした」
彼というのが、かつて兄と慕った《玉座》の名を持つ象徴の事だとすぐに分かった。
「…………」
「最後の王は、かの能力を持って不老不死になろうとしました」
永遠。それは権力者が誰もが望む事。
――くだらないとしか思えない。
「私達象徴には苦痛でしかないですけどね」
「おいて行かれる事を苦痛に思わないという事は置いて行かれると思うほど誰かと深く関わってないないんだろう」
皮肉気に告げてしまうのは、大切な者の死を悼めない。悼む事が出来ない事が辛く思うからだろう。
象徴は、民を平等に大切に思っていないといけない。
それが王であれ、部下であれ、その死を悼む事は許されない。
「なあ……」
「何ですか?」
「俺はすべてを護ると誓った。――でも、どうやって護ればいい」
弱音。
妄執を抱いているかつて仕えた国の王族。
もう縁が切れたとはいえ、リヒトはまだ自覚が無いだけで呪縛がある。
「エーヴィヒの民にヒメルは自国の《象徴》であるという認識は持たれてます」
貴女の思惑通りに。
「信じる事も必要ですよ」
「シュトルツ?」
「ヒメルはそんな自分を捨てた生み出した者達の妄執に囚われないと信じてあげなさい。貴女が育てて、強くした《盾》を」
《玉座》ではなく《盾》。滅んだ国の亡霊ではなく。今活気のある国として彼が彼らしくあれる事を。
「ダンケな」
「貴女から礼を言われるのは初めてですね」
「煩い」
そんな事を言いながらフリューゲルは動き出す。
「愚痴を言ったな」
「いえいえ。貴女の弱音なんて面白いもの見れましたから」
「……相変わらずムカつくな」
「お互い様でしょう」
にこやかに。
「私の方も警戒しておきます。――忠告ありがとうございます」
「ふん」
照れくさい。こんな礼を言って言われる様な関係ではない。
窓から帰ろうとするが、
「出入口はドアからしてください」
と叱られて。
「分かってる」
舌打ちをしてドアの方に向かう。
そんなフリューゲルと見て、
「カイゼル……」
とシュトルツが兄の名を呟いたのが微かに聞こえた。
お父さんは心配性……(笑)




