166話 《剣》。いらない遺産を見つける
連チャンです!! わ~い
罠を張っておいて、接触する輩を捕らえるつもりだったけど。
「まさか、本当に来るとはな」
あんな策略をしていたのに爪が甘いというべきか。それともこいつも切り捨て要因か。
「王弟殿下。ご無事ですか?」
尋ねるけど無事じゃないだろうな。
香りによる洗脳……。そんな手段はあるとは聞いたけど確か対応法は……。
「――上書きか水ぶっかけだったな」
と思い出して、要は臭いが抜ければいいと判断すると王弟に思いっきり水をぶっかけた。
「…………」
あっ、侵略者が呆れてる。
「王弟だろ……」
「王弟でも危険なうちは甘くしない。というか君主を甘やかすのは象徴として三流だろ」
それは王弟が信用できる方に任せるものだ。
「――で、お前は何者だ」
というかもぞもぞするんだよな。何というか……。
こいつの根本――おそらくこいつの中には、すごく嫌なものが潜んでいる。
「…………《守るために戦う剣》。守るモノを履き違えてないか?」
男の言葉。
「……………象徴の名は、象徴自身から呼んでいいと言われない限り無礼に値する。そう聞いてないのか?」
正式名など知っている者は少ないだろう。ほとんどルーデル卿で事足りるし、フリューゲルで通している事が多い。
象徴同士でも正式名で呼び合わない。
それだけデリケートな内容なのだ。
「無礼? 当然の権利だろ」
ああ。こいつの正体分かったかも。
「………滅んだ国の王族が我が物顔で出てくんじゃない」
呆れた。
「滅んでいない!! 我等は我らが生きている限り、国は滅びはしない!!」
ああ。馬鹿だ。
「――俺に命令できるはずだとそこで思ったのかよ。あいにくだな。ムズィーク王国の王族は俺の護る対象ではないんだよ」
そこを間違えるな。
「我らに逆らうのか!!」
「逆らうも何も、もともとムズィーク王国の象徴ではなく、ムズィーク王国の中にあった騎士団の象徴だ。国の象徴ではない」
それは兄上の立場だった。
そして、兄上が消滅した時。
「ムズィークという国は滅んだ。象徴の死は国の滅びと同義だ」
どんなに滅んでないと言っても象徴を手放した。象徴が消滅した時が国の終わりだ。民の心が、国から離れたという事他ならないから。
「下等な騎士に尻尾を振るか」
舌打ちするな。
「簒奪者を王と崇めるなんて、愚かだと思わないのか」
自分達の正体を公言しないが――まあそこまで愚かじゃなかったようだな――明らかにエーヴィヒという国を王族を格下扱いしているし、簒奪者扱いか。
言っとくけど、ここは旧ムズィーク王国の領土じゃないぞ。国が滅んだ時に安住の地を求めて彷徨って見つけた地であるから簒奪も何もないだろう。
ムズィークの領土はノーテンの収めてる辺りだろうに。
「あんたからすればいう事聞かないと言いたいだろうけど、俺からすれば単純だ」
そう。捕らえれるように鞭を手に持つ。
「俺が護る者は、民であり、民の心の安寧。その為の騎士だ」
勘違いすんじゃね~ぞ。
「礼儀を弁えないか。だから、野に降ったか」
言葉に気を付けろよ。
というか。
「元々、王族は俺の事よく思ってなかったもんな」
女の象徴。
白い髪に赤い眼という色彩欠乏症。
それに合わせて、生まれた頃は弱かったしな。すぐ消える象徴だとみんな見下してたからな。
ホントよくここまで生きてきたものだ。
特に王族なんて不気味だと見下していた。騎士団に守られて生活していたのにそれを忘れて民を忘れて享楽に浸っていた。
「代は変わっても考えは変わらないんだな~」
じゃなきゃ化石みたいな考えを未だに持ち続けてないか。
しかも、面倒な事に象徴として生まれた自分の能力が、本能がこいつに抑え込まれそうになっている事だ。
護るべきものに攻撃をしてはならないと化石のような古い情報が行動を規制しようとしている。
ホント。
「厄介だな」
こいつは守るモノではない。守るべき民を国を滅ぼそうとしている病原菌だ。それだけど、古い記憶がエラーを起こしてくれる。
「取り敢えず命は保証してやる。その香の出どころも知りたいしな」
人を洗脳する。麻薬の一種だろ。
「……フッ」
鼻で笑うな~。舐めてるんだろうな。
「はいそうですかというと思うか?」
男の手には閃光弾。それで一瞬目がくらむ。
その一瞬で男の姿は消えている。
「――逃げたか」
追っ手を……。いや、
「あの麻薬は人じゃ危険だな」
象徴なら大丈夫だが、人にはきつい。麻薬に慣らしているはずの王弟が身動きを封じられるくらいの代物だ。
「リヒトに連絡を――」
窓から声を掛けると多くの鳥が飛び立つ。
「ホント厄介だな」
早く捕らえないと――。
王弟を駆け付けた部下に頼んでその男とその繋がっている輩を探しに外に出た。
忘れている人のために。
ムズィーク王国 かつてあった大国。
内部分裂。内乱で滅んだ国。
フリューゲルとシュトルツはかつてその国の騎士団の象徴とか宰相の家系の象徴だった。




