165話 王弟に忍ぶ闇
久し振り……サボってました
王族関係者の入っている牢。
そこに一人の男性が見張りを眠らせて、進んでいく。
「殿下」
そっと牢に囚われている王弟――王殺しの第一容疑者に向かって声を掛ける。
「――何者だ」
王弟ヨーゼフはその声を掛けてきた者に尋ねる。警戒は当然している。
にやっ
「殿下が冤罪で囚われているのが心苦しくて偲んできました。今ここからお出しします」
恭しく告げるが、
「そして、人知れず処分するのか。それとも傀儡にして内乱を起こすつもりか?」
ヨ-ゼフの言葉に、恭しく下手に出ていた男は嘲笑う。
「――お見通しでしたか」
「当然だ。王族としてその手の事は警戒している」
だが、どこの手の者か分からないがな。
「――分からなくて、当然です。我等はお前達の届かない高みを見据えているからな」
男の手には武器などない。
「何で戦うつもりだ」
「何って……」
男は馬鹿にするように格下と王弟を扱い、
「武器など下賤なモノが持つ者だろ」
必要ないと言い出す。
「武器を持たないで俺を抑える事が出来るのか?」
「出来ますよ」
かちゃっ
鍵を開ける。
「さっさと逃げて下さい。まあ逃げないでしょうがね」
「当然だ。わざわざ罠に掛かりに行くと思っているのか」
もしそれをするのなら自分は国を守る者として責任感はないのかと問い掛けたい。
王族としてすべき事。それを知っているゆえに軽挙な事はしない。
「いや、お前はするさ」
男の手には携帯用の香炉。そこから漂う甘い甘い香り――。
この香りは危険だと鼻を抑えるが既に遅い。すでに香りを吸っていた。
身体の自由が利かない。意識があるのに身体と精神のつなぎ目が切れたように力が抜ける。
「さあ、我らの声が届くだろう」
声が届く。
その声に頷く。
頷くつもりなどないのに。
「お前はこれから王を殺して国を奪おうとしたと自白するんだ」
こくん
頷く。
「そして、すべてを語り終わると隠し持っていた毒薬で自害する」
男の手にある薬を受け取ろうとするように手が伸びる。
必死に抵抗しようとするが、身体はわずかに動きを遅くなるだけで逆らう事は出来ない。
(お前達は何者だ)
複数形。
つまり単独ではない。
「お前が問い掛けたい事は分かっているが、下々の物に語る口などないな」
下々の者?
王族である自分にそういう事を言う者。
では、他国の工作員ではないのか。
「しゃべり過ぎたな」
男は失敗したと笑い、
「――いや、もっとしゃべっていいんだぞ」
その男の背後から剣を突き付けて、声を掛ける存在。
ルーデル卿!!
その姿を誰よりも信頼できる《守るために戦う剣》という名のこの国の象徴だと知って。
――ヨーゼフは安堵して、抵抗するために張っていた気を緩めた。
今更ながらヨーゼフの名はどこぞのアルプスから取りました




