164話 《冬》。小者を利用する
ヤンデレ………
とある場所――。
「ふうん」
にこにこ
あどけない子供のような笑み。
「じゃあ、君が僕達の欲しい物を用意してくれるんだぁ~」
無邪気な言葉。
だが、それに騙されてはいけない。
北の巨人に比べると小さいが、西の大陸では身体が一番大きい象徴。
冬の名を持つ象徴がそこに居た。
「――ええ。悪い話ではないでしょう」
かの象徴と話すのはとある一族の一人。
そう滅んだ国の王族という凝り固まった誇りのみで生きていた者達の一人だ。
「そうだね~」
くだらないな。
冬――イワロフは呆れているが顔に出さない。
国を――民を捨てて逃げた者達。別に責める事ではない。逃げるのも手だ。だけど、こいつらは、かつての王族という誇りを未だに抱いて、自分達の栄華という幻に取りつかれた妄執者だ。
(民はどこにいる?)
国は王だけでは成り立たない――。
栄華を取り戻すのは勝手だ。勝手に内乱でも独立でもすればいい。
その隙に領土を掠め取ればいいだけだ。
だが、こいつらは、民という存在を無視して自分達の国を作ろうと余分な火種を作る。そんな王族だけの国が果たして成り立つのかという根本的な事に全く気が付いてない。
(こういう輩が湯水のように金を使って国を滅ぼしたんだろうな)
滅んで正解だ。
ましてや、権力の近道をこいつらの先祖は手放したのだ。
(まあ、あの子供がこいつらの手に渡るのは万々歳だから手を貸すけど)
あの子供――。
大事な大事なフリューゲルの弟として側に居るあれ。正直邪魔なのだ。
(国を…民を守るために立つ君は大好きだよ。でもね)
背中を預けていい相手を持つなんて許せない。
民なら……人なら許せる。
だって、人はすぐに死ぬ。
象徴とは異なるものだ。
でも、象徴は駄目。
――ましてや、同じ国の象徴?
(生も死も同じ。共にあり続けられる存在なんていらないでしょ)
フリューゲルは気付いてない。弟だと告げて側に置いている存在が、ただの雄であることを。
キョウダイではなく、番いとして側に居たい事を。
(自覚は無いけど……。君が誰かを頼るなんて無かったでしょ)
象徴といて、民の現身のように特徴を持つはずだったのに、その姿は本来持つはずの金色ではなく銀を纏い、緑の宝玉を持つはずだったのに血のような紅を持った。
色素欠乏症の象徴。
――そう。異端な象徴。
防衛特化とか。守りの女神だと今では認識されているが、生まれた頃はただの出来損ないだった。その出来損ないが、足搔いて足搔いて、力を得る。
その煌めきが見ていて飽きないし。その希望を壊すのが面白いと思えたのだ。
(そういう意味じゃこれも同じか)
ありもしない幻のために動いている小物。
フリューゲルの側に居るあれの本来の持ち主。
「うん。いいよ。力を貸してあげる~」
「ありがとうございます!!」
礼を述べているが、利害の一致がある今は下手に出ているだけで互いにいつでも切り捨てる算段を組んでいる者達。
まあ、それはこっちも似たようなものだが。
「君達はエーヴィヒにいる自分達の象徴を取り戻したい。僕は、雪の無い冬が見たい。じゃあ、その目的のために協力しようね」
にこにこにこ
「――裏切ったら。許さないよ」
脅しを忘れずに、告げるともう用が無いとそいつらから去る。
あんなのと話しているのは面倒だし、耳が汚れる。でも、目的のためには仕方ないかとあいつと一緒に居たから汚れたと思われる身体を洗い流そうと浴室に――貴重なお湯を使いに移動した。
こいつは敵に回しちゃいけない相手




