163話 《剣》。冤罪だと詰め寄る
なかなか進まないよ~!!
カンカンカン
石で作られた廊下に響く革靴の音。
「――殿下。聞きたい事があります」
憲兵が第一王位継承者である王弟――ヨーゼフ――に有無を言わさず連れ出す。
………前代未聞の出来事だった。
「リヒトっ!!」
王の死で喪に服している国民達。
唯一喪に服さない――服せない――象徴であるフリューゲルは弟であるリヒトの執務室に駆け付ける。
「王を暗殺した証拠が見つかったって……」
わなわなと体が震える。怒りのため。
「ええ。王弟………ヨーゼフ殿下だと。憲兵が証拠を集めました」
第一王位継承者。軍に所属している王弟ヨーゼフ。
「陛下の乗った車に爆弾が仕掛けられていました。それを確認したのはヨーゼフ殿下。最終確認を怠ったのは彼が仕掛けたからではないか。――憲兵の判断です」
「あいつがするわけないだろっ!!」
彼を知っているからの発言。
「――本当にそう言い切れますか?」
「リヒト?」
「人には表の顔も裏の顔もあります。――それを一概に言えるでしょうか」
リヒトの冷たい声。
だが、そのリヒトの言葉の裏には冷静になろうとして感情を押し込めているのが見え隠れしている。
「リヒト……」
「象徴は感情で判断できません。客観的に冷静にならないといけないんです」
だから。
その人の在り様などというもので判断して無実だと言い切れない。言ってはいけない立場だ。
「その理屈は分かっている。――だったら」
一度言葉を切る。
「ヨーゼフは、こんな証拠を残すようなへまはしない」
断言。
「――盗聴の心配は?」
リヒトがいきなりそんな事を言い出す。
「――俺がそれを許すと思うか?」
そんな事しないぞ。
にやりと笑って付けると。
それに反応して、今までのリヒトの顔が少しはがれる。
そして――。
「姉さんならそうだろうな。――明らかに彼が関わっているという証拠が多すぎる。――不自然な位な」
と、誰にも聞かれてない前提で彼は告げる。
「……………」
それを黙って聞く。
聞かれてはいけない。重要機密。リヒトはここで言うつもりが無かった内容。
「冤罪なのは分かっている。だが、手掛かりが少ない」
「だから捕らえるのかっ!!」
怒りを宿して詰問すると。
「そんなわけないだろっ!!」
反論。
「リヒッ……」
「罠だと分かっている。だが、その罠の先が読めない。探そうと思えば思うほど目の前の明らかな冤罪の証拠が増えるだけで………!!」
リヒトの声にははっきり焦りが出ている。
「リヒト……」
そのリヒトを落ち着かせるように。
ごんっ
頭に拳骨を叩き込む。
「姉さん……」
「――甘やかしてやっても良かったけど。それじゃ、お前が納得しないだろ」
断言。
ガタイがデカくなったからこっちも痛かったなと殴った手に息を吹きかける。
「――お前はよくやってる」
それは認める。
ただ成果が出てないだけ。
そして、成果が出る出ないで、人の命が……国の行き先に影響が出る。
頭の固いこいつでは焦りがますますこの件を複雑にしているのは目に見える。
「――考え方を変えよう」
それを解き解さないとな。
「姉さん?」
「お前は優秀だけど、そこら辺の柔軟さはないからな。――誰がこの件で得をする?」
「だから、ヨーゼフ殿下が………」
「……言い方を変えよう。――陛下の件。ヨーゼフ殿下の件。それで得するのは?」
「それはもちろんっ……」
リヒトの言葉が切れる。
手掛かりが掴めたか。
やれやれ。
「………ですが、それは考えられない」
「本人ではなくても側近がしてもおかしくない。――それだけの理由もある」
ヒントはここまでだ。
「まあ。証拠を探すのが大変そうだけどな……」
それでも。
にやっ
「姉さん?」
「……とりあえずこのまま捕らえてろ」
「姉さんっ!!」
さっきと言っている事は違うと慌てるリヒトに面白がる様に笑い。
「黒幕は喜ぶだろうな。――これで自分の思い通りになるって」
「………泳がせるんですか」
「ああ」
そう言うのも手だ。
――いっそこの状況を利用してやろう。
「毒殺とかを警戒してろ。死人に口なしだ。――自殺を思わせるような殺され方されたら堪ったものじゃない」
まさか、リヒトに詰め寄った時はこんな展開になるとは思ってなかったな。
「俺は今回の事でお前と意見が分かれて冷戦状態。そう情報操作しておこう」
「…………………………………………………………………………………………………………姉さん」
何か言おうとしたリヒトの方を見る。
「他に手はあるか?」
「…………………………………………………ないです」
リヒトのどこか自信喪失した顔。
「リヒト」
そんなリヒトの肩に手を置いて顔を無理やり近付けさせる。
「俺が盛大にお前の事悪く言うから。頼むな」
そう告げると。
「………姉さん」
「何だ?」
「俺はまだ貴女に引っ張られてばかりだ」
その言葉が力ない物だった。
「そんな事ないぞ?」
どうしてそんな話になるんだ。
「お前が居るから派手に動けるんだ」
そう断言した。
お姉さんが逞し過ぎて実はつらいリヒトさん……( ;∀;)




