160話 《盾》。王弟に懐かれる
内政と防衛でまた離れ離れの姉弟です
たったったったったっ
「ルーデル公っ」
本を両手で抱えて、第三王位継承者――王弟アルベルト様がこちらに向かって走ってくる。
「殿下。どうされました?」
「兄うっ……陛下が近いうちに地域に視察に行くんですよねっ!! どういうところなんですかっ?」
7歳の少年。その目は好奇心で輝いている。
「いい所ですよ」
森に包まれたエーヴィヒで特に森に近いその地域は、森と人の共存がされている。
ただし、森が近いというだけで作物を育てる場所はなく、貧しい環境だ。
今回の視察は環境を傷付けずにその土地の発展が出来ないかと専門家の視察が目的だ。そのついでに、結婚したばかりなので、新たなに王妃になったヒルデ様のお披露目も兼ねている。
「いいなぁ~。僕も行きたいです」
「殿下もそのうち行けますよ。陛下を支える家臣になっていろんなところに視察に行けますので」
「そうだね…僕は兄上を支える家臣になるんだね」
まだ幼いからその感覚は少ないだろうが、そういう教育はされている。王を支える忠臣。
第一王位継承者である兄君は軍人として国を支えようと学び。
その弟であるアルベルトさまは賢いから内政向きだろう。
「いつか僕も視察に行けるかな」
「行けます」
今は幼いから出来ないが、大人になればいつでも。
「ところでアルベルトさま」
視線をアルベルトさまに合わせて、
「今は何の時間ですか?」
その言葉に合わせるように。
「アルベルトさまっ!!」
廊下を走ってくるアルベルトの教育係。そしてアルベルトの世話係の姿。
「こっ、これはルーデル公!!」
「――お疲れだな」
また逃げられたんだな。
笑って告げると。
「はッ、はい……不甲斐無く……」
「仕方な。こうやって抜け出して気ままに動かれる方が生まれるのも王家にはよくいるからな」
まあ、それでも目を話していいと言う訳ではないが。
「申し訳……」
「――公」
謝る世話係を止めて、
「抜け出したのは僕です。これ以上爺を責めないで下さい」
と謝罪する。
「――分かっておられるのならいいですが、位の高いものほど自分の行動が周りにどう影響するかお考え下さい」
「分かってます。――ところで公」
にこにこと本当に分かっているのか――いや、分かっているのだろう。それでも笑顔を浮かべるというのは神経が図太い証拠だ。
「公はこれから何を」
「少し時間が空いたからな。鍛錬に行こうと思って」
するとアルベルトはますます微笑み。
「なら、その時間。僕に下さい」
「でっ、殿下っ⁉」
世話係が悲鳴を上げる。
「貴方の口からいろいろ聞いてみたいんです」
好奇心旺盛。目を輝かせて聞いてくる。
「殿下。公はお忙しいのですよ」
「今暇な時間が出来たって」
「たまの自由時間ですっ!!」
ゆっくりさせてあげてください。
「えぇ~」
不満そうだ。
「申し訳ありません。殿下」
付き合っても構わないが、ここは世話係の意思を尊重しよう。それに、
「この時間なら姉の訓練に参加できると思いますので」
なかなか時間が合わないので会えない。その姉と会える僅かな時間。
それに――。
(王族であっても王とその身内で距離を考えた方がいいだろう)
軍に所属するのならもっと親密でいいかもしれないが、自分は内政官だ。
親しくなり過ぎて判断を間違えてはいけない。情に作用される事になってはいけない。
そう判断したからの断りだった。
誰でも対等に付き合う(王を除く)姉。
誰にでも一線を置く(王は除く)弟。
似ているようで似てない二人。




