外伝 大君の覚悟
大君さんって重要ポジのはずだけど……人間サイドだと
「良かったですね」
声が降ってくる。
大君の寝室。
ここに入って来れるのは大君の伴侶のみ。まあ、もちろん近くには不寝の番が居るが、
「………覗き見ですか?」
大君は驚いた様子もなく声を掛ける。
彼女を害するモノではない。それを知っているからだ。
いや、そもそも害するとかそういうのは関係なく……。
「覗く権利はあるだろう。君の神として」
「………………」
そう。声の主は大君の神。
現段階で、この国を支えている一柱なのだ。
そして、大君の夫神である。
「この国が外に開かれた時に降された予言。炎に包まれるこの国は、先の大戦ではなかった」
「………………」
神は告げる。
「安心したよ」
「でも、いつか訪れます……」
自分ではない。だが、後の大君がそれを目の当たりにする。
「だが、吾は其方を喪わなくて済む」
「………神としては如何なものです」
大君の本来のお役目をご存知なはずでしょう。
「だからだ」
すっ
触れられる感触。だが、姿は見えない。
当然だ。
大君になった時に国全体の巫覡になった。自分だけの神との接触は少なくされた。
大君はすべての神を均等に愛すべきな為。
「吾は其方を魂になってようやく一柱占め出来るんだ。それを待っているのにその機会を奪われるなんて堪ったものではない」
「……私の神は独占欲が強いですね」
「――当然だ」
大君の呟きに間髪いらずに断言される。
「神と言うのは気に入った存在だからこそ加護を与える。人で言う伴侶の扱いの様なものじゃ」
「では、私は執着されていて他の男に会わせてもらえないと愚痴る妻のような立場なのですね」
「愚痴れるだけでもマシじゃろ」
ふふっ
神の笑い声に苦笑してしまう。
「ところで外に出した神だが」
「ええ。――どのように化けるか。楽しみです」
善意とか生み出した人間と話すのが哀れだからと言う理由で外の世界に出したわけではない。
引き離すのが可愛そうだと思ったら外の人間をこの国の者にさせてしまえばいいだけ。
手段はあるのだから。
「吾の巫覡はあくどいのぅ」
「そうでも無ければ、大君は務まりません」
くすりっ
大君は笑う。
一柱と一人はある意味似た者同士だ。側にずっといたから似て来たのか元々似ているから気が合ったのか。
神は愛する巫覡しか考えてないが、国の事を考えているから一柱占めしたくてもしない。
大君はこの国に居る八百万の神の事を考えているが、国の利益になると判断したから本来なら外に出すという禁じ手も行う。
「私の代は物珍しさが勝っているので国交は上手くいくでしょうか。物珍しさが消えたら……」
「――紳地と言っても自分達と変わらない。それ以前に文明も遅れている猿真似しか出来ない国だと舐められるだろう」
「ええ。その為に出した神です」
神地にしか現れない神と呼ばれる存在。
象徴とは異なる人外。
「外の国を学んで知りました。イーシュラット……幻獣のいる国はその希少さで発言力は高いと」
なら、同じぐらい希少さのある我が国では?
神地と言う場所は?
「神が外にいる間。炎の予言は遠ざけられるでしょう」
「――そうだといいがな」
そう。旨く行かない。少なくても遠ざけれはしても消えない。
この国はいずれ世界を敵にして炎に巻かれる悲劇が襲ってくる。
そして――。
大君が本来の役割を果たす時が訪れるのだ――。
神の花嫁=……




