158話 《盾》。彼はまだ何も知らない
ようやく再会。
つくづく別行動が好きな姉弟である。
戦争の後始末はシュトルツが仲立ちになって、事が進むらしい――。
「我が国に影響でなくて良かったですね……」
部下の言葉に頷く。
「姉貴は帰ってこないがな」
まあ戦争に巻き込まれてなくなってはいないだろう。どこで遊んでいるのやら。
そう遊んでいるだけ。
無事だというのは何となく察せれる。
「…………」
ぼんやりと自分の手を見る。
何も変わらない。変化のない自分の手。
だけど、なんでだろう。
凶暴なバケモノになってしまったような感覚がある。
(………象徴としての力)
そう。それを使った感触は残っている。
そして、それの危険性も――。
「ルーデル公?」
声を掛けられて我に返る。
「どうかなされましたか?」
顔を向けると尋ねられる。
「いや……、戦争に巻き込まれて復興も大変だろうな。――支援と言う形で物を安く売り込んでおこうと思って」
「……我が国が損しませんか?」
部下の言葉に。
「あるかもな」
あっさり告げる。
だが、
「我が国の製品の良さを見せつけられて、新しく買い替えるとしたら他の物に手を出せると思うか?」
にこりともにやりとも取れる笑み。
「…………策士ですね」
「それだけ自国の製品に自信があると判断してくれ」
製品など、どこかが良い物を作ればこぞって見本――真似をする。
だが、真似されても構わない。いや、真似できるモノならしてみろと言い切れる自信がある。
「……………………我が国の職人も大変ですね」
象徴にそこまで期待されているのですから。
「――まあ、そんな技術で競争する方が平和でいいかもな」
窓から声がする。
「姉さんっ!!」
「よっ!!」
そこには長い事留守にしていた姉の姿。
ひょいっ
相変わらず窓からの侵入――子供が真似したらどうするつもりだ。
「あっちは落ち着いたから戻ってきた」
「落ち着いたって……」
戦争の方か。
「まあ、戦争もあるけど、マイケルの方も冷静になった」
徹底的に教育を施したからな。
「……………………」
その冷静にさせる過程が気になったが、聞かない事にする。
「それはそうと。――リヒト」
声を掛けられる。
「姉さん?」
じっと見てくる紅玉のような紅い瞳。
「………何か。変わった事ないか?」
尋ねる声はいつも通りの軽い口調。だが、
「別に……」
どくんっ
聞かれた方はいつも通りといかない。
自分の中にある力。
象徴と言う存在の力。
それが、
(怖い……)
隠さないといけない力だ。
(こんな力あると知られたら。姉さんに嫌われる!!)
そうそんな恐怖が脳裏から離れない。
そんな事ないと否定してもらいたい。
「……そっか。ならいい」
姉さんは納得したのか――でもどこか迷うような顔になったのは気のせいだろうか――。
「悪いけど、少しの間人払いしてくれないか?」
いや、どっちでもなかった。
人払いを済ますとグイっと腕を伸ばして首を曲げさせる。
姉さん痛いんだけど、身長縮めって言われた事を思い出すけど……。
「――言いたくないならいい」
「――姉さん?」
「だけど、抱え込むな。――俺はお前の姉だ。愚痴を言ってもいい立場だからな」
愚痴を言ってもいい――『姉』か。
「――うん。分かった」
複雑な想いを胸の内に仕舞い、笑う。
「その時になったら言う」
でも、言わないだろうな。
(姉さんが俺を弟として扱うんだろう。この弱音を見せたら)
見せたくない。
弟として居たくないから見せれない。
この象徴の象徴としての名前が脳裏に浮かぶ。
護るために戦う剣。
おれはその護られる対象なのかと言う不満が抑え込んでいた要求が出て来そうになるのを飲み込む。
その対象で居たくない。
そんな想いがここで生まれて――いや、ここで気付いてしまった――。
――それが。
後に自分の首を絞める結果になるのを気付いてなかった。
そして、それを俺は後悔し続ける事を――。
これでこの章はおしまい。
おまけを挟んで次の章に行く予定です。




