154話 《盾》。恐怖でその力を目覚めさせる
ようやくここまで来たよ……
とくん
それは唐突だった。
とくんとくんどくん
心臓の音しか耳に入らない。
不安。
恐怖。
意味の分からない何かが襲ってくる。
――ウシナワレル
何が?
ウシナウ……? 喪う?
何を?
誰が?
どくんっ
何故か。忘れたと思った光景が脳裏に蘇る。
遠ざかる馬車。
去っていく人達。
――待って
『いらないわ』
告げられた声。
『どこから入り込んだ子か知らないけど。足手まといにしかならないのよ』
気持ち悪いモノを見たと扇を手にして顔をそむける貴婦人。
『さっさと捨ててしまえ』
身分が高そうな者が叫ぶ声。
足蹴にされ、馬車から無理やり降ろされた。
――どうして……⁉
僕を生んだのは貴方達なのに。どうして僕を捨てるのっ?
貴方達の想いが僕を生んだのに、貴方達が『**********』を望んで産んだのが僕のはずなのに!!
身体が崩壊を始める。
必要ないと切り捨てられた《**》は存在が消える。
あの人達は……自分で自分達の望みを叶える存在を切り捨てたのだ。
消える恐怖。
怖いと思ったがそれと同時に自分を産み落とした者達がいらないと告げた事が心を凍らせる。
――僕は生まれてはいけなかったの?
必要だから生まれたはずなのに。
僕をヒトだと勘違いして《**》であるのに捨てた。
僕は……。
本当ならここで消えていた。
ここで終わっていた。
『生きたいか?』
あの声が降ってくるまで――。
生きる理由をくれた。生きていいと肯定された。
それが…その人が喪われる。
どくんっ
嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ。
僕から。俺から。取らないで。消さないで。
あの人の笑みはお日様のように僕を照らしてくれた。
あの人の行動に困らされるが甘えられているようで嬉しかった。
大事な人。
大切な人。
喪いたくない人。
ガタガタガタ
何かを封じていた蓋が動く。
この状態で日々を過ごしていくのに必要が無いと無意識で封じていたモノが解放される。
僕の……《象徴》としての力。
――姉さんと生きていくのにこれはいらない。
――俺を生み出した人達は俺を要らないと告げた。だから、この力もいらない。
俺を。僕を。生み出した人は……《ムズィークの再興》を望んでいたけどその近道を捨てたのだからいらないよね。
僕は人がいい。
象徴なのは分かっている。
でも、だからこそ象徴ならではの力はいらない。
――だって、《象徴》はいらないんでしょ。
なら、こんな力いらない。
いらないのに――。
「姉さん……」
駄目だ。
喪ってしまう。
このままじゃ、零れ落ちてしまう。
封じた力。使わないと使うつもりが無いと封じていたモノ。それが解放される。
そうしないと――。
(姉さんが喪われる――)
取らないで。
がたっ
パンドラの箱。
開けてはいけないと判断したもの。
象徴としての……《玉座》の名を持つゆえに諸刃の剣の力。
それが今――。
「姉さんっ!!」
解放される事になった。
リヒトの力は捨てられたトラウマと弱ければ側に居てくれるという打算で封じてました(無意識)




