151話 《剣》。亡霊に舌打ちをする
こんなに時間かかるつもりはなかったのにな……。
神は便利だな……。
ぼんやりと――そんな場合じゃないが――そんな事を考えていたら、
「何だいッ⁉ このバケモノはっ!!」
わあわあ騒ぐ存在が近くにいたのを思い出して苦笑する。
「わあわあ騒ぐと海水が口に入るぞ」
海の中。というか今の段階は船から落とされてあっぷあっぷしているのだ。
「なんでどうしてこうなったのだいっ!!」
八つ当たりの様に喚き散らすそいつを呆れたように見つつ、
「――よく間に合ったな」
部下二人に礼を述べる
「いえ…。ぎりぎりになってしまいまして……」
「いやちょうどいいものだったな。これ以上早かったらお前達も危険だったからな」
いつまで喚いているのかと部下の用意した船に喚いているクソガキ――もといマイケルを引っ張り出して船に乗せる。
さっきまでいた船の一部は燃えている。
「どうやら、読みは当たってたみたいだな……」
当たってもらいたくなかったんだけどな。
マイケルを説得して、いいところまで誘導――洗脳に近いかもしれないが――したのはいいが、それを何者かにとって都合悪かったのだろう。
船を爆破された。
「性質悪い……」
死んでもいいという感じだ。いや、目的のためになら殺しても構わないという事だろう。
「なんで……」
救助の船に乗り込んだとたんマイケルがぼんやりと呟く。
「なんで、俺がこんな目に合うんだいッ!!」
俺は……俺は……。
「世間を知らな過ぎたからだろう」
やれやれと呆れたように見て、
「お前は利用されたんだ」
認めたくないだろうけどな。
「………」
マイケルは黙っている。
「ラサニエルに連絡してくれ。戦争も終わりだ」
片付けは手伝ってやるから。
そう告げつつも。旨く事は運ばないだろうと船を見上げる。
「ちっ」
舌打ち。
ムズィークの生き残りか。
妄執だけで生きて、血を繋いで、象徴という存在を生み出したくせに絶好の機会を逃した馬鹿達が。
消えかけていたリヒト。あれを見ていたからこそ怒りが込み上げてくる。
(被害を広めるんじゃない!!)
護る者。護るために戦う剣。かつての主君であろうと、いや……国が滅んだ時点で、もはや主君として価値はない。
ましてや、自ら機会を逃したんだ。今更しゃしゃり出てくるなと言いたいほどだ。
そう、幸せを守るためにいる自分という存在であるからこそ。そいつらは認められない。
「亡霊が」
忌々しいと思いつつもこの件はこれ以上手出しできない。
今回の戦争にこれ以上関わるつもりはないのだから――。
そろそろ終わりなのにな。この章は……。




