146話 《盾》。戦力を手に入れる
まだ本題に進まないのに、ペースが落ちまくっている……
姉さんは忙しない――。
「じゃあ、行ってくる」
馬に跨って、どこに行くかも教えてもらえない。
「姉さ……姉貴は」
部下に尋ねると。
「ミレニアムヘブンの軍の元に……ミレニアムヘブンの象徴に会いに行かれるとの事です」
ミレニアムヘブンの象徴⁉
「何考えてるんだっ⁉」
危険の中に突っ込んでいくなんて……⁉
「………」
まあ。考える事は一つだけか……。
守るための剣。
「姉さ……姉貴は何を『守る者』と判断したんだろうな」
「――若い象徴でしょう」
即答される。
「ミレニアムヘブンの象徴。マイケルをか……」
あいつはこの戦争の元凶だろうに。
「……民の声に踊らされるだけの象徴です。しかもその声が実際に民の声かと言われると……」
「………」
そんな話をしていたら。
「ルーデル公」
ドアをノックされる。
「どうした?」
入っていいと告げると二人の兵士……………?
「…………………………なんだそれ?」
兵士の近くには奇妙な子供とかモフモフしている大きな二等親の犬――と言いつつも実際の犬よりも可愛らしいが。
のちにどこぞの象徴が『これがゆるキャラです!!』と説明してくれたのだが。
「ルーデル公……ルーデル卿の元で特殊訓練をしていたのですが、卿はどこへ……」
……………………姉さんは人外も育てるようになったのか。
「公。これは神地の神と呼ばれる存在の一部ですが……」
神地の民に訓練を教える為に向かっていた部下の一人が説明するが………それは姉さんから聞いていた。確か、
「神地の神は神地の外に出してはいけないのではなかったか」
だから部下二人が神地から出せないらしくてどうすればいいのかと姉さんが困っていた気がするけど……。
「実は………」
本人達も戸惑っているのだろう。縋るような目をして――うん。姉さんなら庇護欲くすぐられるな。あの人は守る対象と仕える部下の扱いが極端に違うからな――手紙を出してくる。
「手紙……?」
質のいい紙――これは神地の紙だな――を受け取り、広げて見る。
「………」
墨という神地で文字を書くインクで書かれたエーヴィヒの――正式にはムズィーク文字と言うが――白い紙に掛かれているが………。
はっきり言うと字が汚い。
誤字脱字が目立ち、解読するのが難しい。
「この手紙は誰から………?」
象徴に渡すのならもう少しその手の事は気を付けないとそこから国交が崩れたりするんだぞ。まあ、そこまで心は狭くないが、心評は悪くなるものだ。
「それが……」
迷う素振り。
「あちらの象徴からなんです……」
ひらっ
手紙を落とした。
「それ…本当か……」
あちらの象徴――烏丸からは以前文を貰った事があるが、こんな字ではなかったはずだ。そう神地の字であったが……。
確か……そこらに以前烏丸から貰った文が……。
引き出しから手紙を取り出す。
そこには絵を思わせる――でもなんて書いてあるのか分からない――字が踊っている。
「あのルーデル公………」
一人が口を開く。
「どうした?」
「この文の字ですが、神地の字とこの国の字が異なり過ぎるからこうなったのではないかと……」
言われて見比べる。
すらすらすらと何というか流動的な柔らかい感じの紳地の文字と四角四角の全体的に硬いエーヴィヒの字。これは差が出る。
「ああ……」
納得してしまった。
それにしても――この誤字脱字まみれの手紙を何とか解読してみて――。
『神地以外の民が紙を生み出した事も今までなかった事なので、他国でどんな影響があるのか知りたいので国にお返しします。ただし――神に影響がある様ならすぐに神地に戻ってもらいますので』
時候の挨拶を書いてからの直球の内容。
「他に……」
「はい」
「他に何か言われてなかったか……?」
尋ねると。
「………どう使うかは判断を任せる。との事です」
「そうか……」
その言葉に考える。神地の神。外に出すのを躊躇っていたのをここで出してきた。
――その意味を間違えてはいけないと思わされた。
戦争の中に突入しない主人公……




