145話 《剣》。膿の正体を見抜く
弟君のセクハラをスルーする姉
まったく。リヒトにも困ったものだ。
気付かれないようにそっと溜息を吐く。
手紙の内容に集中しているのを目で確認すると。さりげなく張っていた警戒を緩める。
(まさか、弟に警戒する事になるとは思わなかったな)
後ろから抱き付かれた事に自分でも驚くぐらい動揺してしまった。
『姉さん……』
おずおずと服の端を掴んで甘えてきた子が大胆になったというべきか。女性に誤解されるから気を付けろと注意するべきか。
(俺だったから良かったものの女性の部下にしたら勘違いされるぞ)
迫られてるかと。まあ、リヒトは顔もいいし、性格もいい――敵相手だと容赦しないがそれもいい性格だ――多少の好みはあるが悪気があってされたのではないからある程度の女性陣は不快に思わないだろう。
姉の欲目だと言われるかもしれないが。
自分は対象外だけど――。
「あいつ絶対女にもてるな」
そんな子に育てた覚えは無いが。
「それにしても……」
この一文で分かった。
(リヒトを生み出した輩。……ムズィークの王族の生き残りが絡んでいるな)
自国を滅ぼして、その責任も負わずに逃げ出した者達だろう。
国の中枢に居た者達は国が滅んだ時に見せしめとして処刑されていた。
シュトルツの主君は王族の血を引いているが、家臣筋だったから処刑されるのを逃れた。まあ、滅ぼした者らも国を回すのに一からするのは面倒だったから押し付けたのだろうが。それゆえ、シュトルツの所は裏切り者の烙印を押された。
(まあ、それを利用して国を作っちゃうところが知恵者なんだけどな)
あそこは敵に回すと正直厄介だからな。
早々に国を捨てたのに、象徴を生み出して、その象徴の意味を知らずに捨てる。
それで今更暗躍か。
これはもしかしたら象徴に気付いた者らが動いてないだろうか。
「姉さん……」
リヒトがこちらに視線を向けてくる。
「何でもない……」
もしそうなら、かつての主君筋の一族といえど、滅ぼさないといけないな。
(主君面して今更出てきて騒乱を撒き散らすならな)
大人しくしていればそんな事しないが。
とりあえず、シュトルツに連絡だな。
(テッラの所に部下を送り込もうかな暗部専門の輩を)
膿は滅ぼさないといけない。
「……リヒト。マーレに連絡してくれないか」
「マーレに?」
「ああ。どうやらミレニアムヘブンはその国を滅ぼしたい馬鹿に操られているようだとな」
マーレを通して、テッラに連絡が行くだろう。鳥を使うより早い。
「それと陛下に連絡を。――俺が出ないといけなくなりそうだと」
そうなると思ったけど、予想より最悪な事態だと判断しての発言だった。
リヒト。泣いていいぞ




