140話 《約束》。その影に気付く
ミレニアムヘブンに行ってしまった元イーシュラットの住民は幻獣を見えなかったのも移住の理由だったりします。
イーシュラットは傍観者だった。
少なくとも今回の戦いは自分が表に出る必要も援助を頼まれていない。
(あの弟が民を蔑ろにしてるのを見てるしか出来ないからな)
トーマスからミレニアムヘブンの情報は逐一届いている。
国土が広いから――元々居た住民から土地を奪っているから――作物の不足は無い。だが、人手は圧倒的に足りてない。
その足りない穴を埋めているのは奴隷達だ。
自由と理想郷を求めて手に入れた国だったが、皮肉な事にすべての民が自由を手にしていない。あそこの国は西大陸がすでに辞めてしまった奴隷制度が残っている。
そして、その奴隷はトーマスと元々居た象徴達の課題であるミレニアムヘブンで捕らえられた原住民の子孫なのだ。
パステルライツとミレニアムヘブン。その二国の戦争で原住民のほとんどをパステルライツに移住させて、解決したかと思われたが、一部の住民は自らの土地を離れるのを拒んだり、その情報が行かなかったり、何らかの理由で罪人になって開放してもらえなかった――冤罪の可能性やミレニアムヘブンが勝手に罪だと決めつけた文化の違いの可能性もあるが――者達の子孫がかの国では奴隷として働いている。
「いくら今は大丈夫でも限界が来る……」
トーマスが戦争を止める様に説得しているがあいつもあいつの国の権力者も聞く耳を持たない。
(ったく。忠告は素直に聞き入れろ!!)
あの弟はがみがみいう君の支援はいらないと宣言して俺の保護を捨てたからな。
『エドワード』
小人がちょこんと机の上に乗っかってくる。
「どうした? 仕事が終わったから角砂糖が欲しくなったか?」
小人達はお手伝いが好きでいろんな家の手伝いをしている。その代価に甘い物を欲しがる。イーシュラットでは、お手伝いが欲しければ窓に角砂糖を置くといいとまで言われるほどだ。
『違うのお客様なの』
『おかしいの』
『僕らが見えてないみたいなの』
わらわらと小人達が言ってくる。
「お前達が見えない? それって……」
からん
「やあ、エド。お久しぶりだね~!!」
入っていいと告げて無いのに現れるマイケル。
「マイクっ……⁉」
「君の国はいつ来ても変だね。何も無い所を撫でているし、窓の所には角砂糖を置いてるし、砂糖なんて貴重品だろう」
訳が分からない。そう告げて、乱暴に椅子に座って――その椅子にはすでに先客が居たのだがマイケルは気付いてない――そんなマイケルの苦笑するしかない。
マイケルは見えて無いのだ。この国に居る幻獣達が。
「――何の用だ」
お前が用事もない時に来るとは思えないし、今は来てる余裕はないだろう。
「ははっ。疑り深いね。そんな事をいちいち疑っていたら禿げるぞ!!」
「はっ…!!」
禿げるって。
眉間に皺が寄ってしまうのは仕方ないだろう。象徴で禿げた者はいない――そもそも老いない――だが、いないとは言ったがそれは自分の知っている段階ではだ。今後もそうとは限らない。
「君に聞きたい事があるんだけど」
「やはり、用があったのか」
「悪を滅ぼすのに協力を求める必要があるだろう。レーゲンブルネン。ノーテン。エーヴィヒをどうやったら滅ぼせるんだい?」
………………………妙な事を言ったような気がする。
「悪を滅ぼさないと第二第三の悪が生まれるからね。やっぱり、正義の力を徹底的に教えた方がいいと思うんだぞ!!」
「…………………」
誰だ。この馬鹿に常識を教えて無いのは。
「………マイク」
「なんだい?」
「なんで、その三国なんだ?」
そう具体的にその三国が出たのだ?
「決まってるだろ」
何を今更とばかりに。
「そのどれかの国が俺の大切な仲間を殺したんだぞ」
「………っ⁉」
馬鹿だ馬鹿だと思っていたがここまで馬鹿だと思ってなかった。
「――証拠は」
「んッ?」
「――殺したという証拠はどこにある?」
淡々と感情を押し殺して――人は――というか象徴だが――怒りが強すぎると感情が表に出なくなり、冷静になれるのだと初めて知った。
感情を出さない声で尋ねると。
「殺された俺の仲間の所にムズィークという言語の文章が落ちてたんだぞ!! その言語を使っているのはその三国だろう」
だから滅ぼさないといけないんだ。
「なっ……⁉」
なんだその理屈!! 馬鹿だ馬鹿だと思っていたが……。
「……それをするのだったら俺は全力で止めさせてもらう」
宣言。
「エドも悪の味方になるんだな!! 正義は孤独だというのはお約束だ。分かったよ!!」
去っていくマイケル。
「マーリン」
「――何者かが、戦争を大きくしたいようですね。いろんな意味で影響力の高い三国を敵に回して」
マイケルに押し退けられた先客――マーリンは答える。
かの伝説の王の時代から生きている魔術師――と言われるエルフは冷静に状況を整理しようとする。
「残された文章とやらを一目見ればもしかしたら狙いが分かったかもしれませんが」
「そう話を持って行けば良かったな。悪い」
「いえ……」
マーリンは首を振る。
「取り敢えず。三国に警告を出してみるか。――戦争を大きくしたいものが居るようだと」
その言葉に合わせるように小型の竜が三匹窓に近付いてくる。その三匹に命令を伝えるとすぐに竜は姿を消したのだった。
マーリンは某円卓から。




