137話 《盾》。胸騒ぎを感じる
シスコンのリヒト(笑)
とくん
とくんとくん
胸騒ぎというのだろうか。さっきから心臓の音がうるさい。
「ルーデル?」
陛下が心配そうに案じて下さる。
「いえ……何でもありません」
陛下に告げるが、この胸騒ぎは消えない。
なんだろう。この感覚は初めてだ。
外を見る。
近付いてくる戦争に怯えつつも、それでも人は幸せを謳歌している。
「………」
象徴は民の心が具現化したものだと聞いた。民の不安や喜びや考えで影響を受けると。その実感はあまりなかったが、もしかしたらそれなのかと思ってつい民を見たのだが………。
胸騒ぎは民の不安ではない――。
それに少しだけ安堵する。民が不安を感じているとしたら安心させれない自分の不甲斐なさを責めたくなるので。
そう――。
彼らは信じているのだ。
守りの剣。
自分達の象徴が絶対に守ってくれると信じているからだ。
守りの剣と呼ばれる象徴――防衛特化の象徴である彼女が守ってくれると。
「姉さん……」
その姉はまだ帰ってこない。シュトルツから自分の所に寄ってどこかに向かったと連絡があったが……。
「無事だろうけど……」
今は民は不安を覚えて無いが戦争が長期に渡れば、品薄になったり、周りの国の様子で民が不安になるだろう。
民が不安になる前に帰ってきてくれるといいが。
「違うな……」
せっかく帰って来てくれたのにすぐに居なくなったのが寂しいのだ。それは民ではない。自分の本音だ。
まだ胸騒ぎが消えない。追いつめられるような不安。それは……。
「この胸騒ぎは姉さんが居ない事で弱くなった自分の心なのか……だとしたら」
情けない。
姉さんが長い時間に居なくて帰ってきたのは、先ほどで出かけているのは僅かな時間なのに――。
溜息を吐く。
だが、すぐにその不安を押し隠す。
とんとん
扉がノックされる。
中に入るのを許して、部下が入ってくるのを目で確認する。
扉が閉められる。それを確認すると。
「――戦況は?」
まだエーヴィヒには影響はない。だが、いつ影響があるとも限らない。部下に尋ねると。
「――かなりやばいな」
窓から声。
「姉さん……じゃなくて、姉貴……」
馬にまたがったまま顔を覗かせてくるのはどこに行っていたのか分からなかった守りの剣その人で。
「一応ここは人払いをしていたんですが…」
「俺にそれは当てはまらないだろう」
「まあ、そうですが……」
「――報告がある。待ってろ」
馬を厩舎に連れて行くからと告げると部下の一人がすかさず、
「ルーデル卿。馬は他の者が片付けますので」
と声を掛けて、火とばらしていたが、誰か従者を呼んでいく。
「そうか。なら頼むな」
ひょいっ
馬を預ける為に馬から降りるような仕草でそのまま窓から中に入ってくる。
「行儀悪い!!」
「ああ。悪い悪い。お前口うるさくなったな……」
誰のせいだと。
「――で、どこ行っていたんですか?」
供を付けないで。
「ラーセロとミレニアムヘヴンが一戦を構えているところをエーリヒと見てきた」
ざわっ
ここに集まっていた部下達が反応する。
どくん
姉の姿を見たのにまだ不安は消えない。
「……はっきり言えば、アルシャナとラーセロはいつでも終わらせられる。だけど」
ミレニアムヘヴンは引く気がない。
――姉ははっきり断言した。
リヒト「がみがみ言う様になったのは姉がフリーダムなせいです」




