135話 《海》。その子供に腹を立てる
マーレも怒ります
「兄ちゃん。敵の攻撃が僕らの船に当たったよ」
マーレは鏡を手にして兄に情報を送る。
マーレとテッラ。二人の能力は鏡さえあれば相手にいつでも連絡できる事。
それで戦況を連絡し合っているのだ。
『そうか――中の者達は?』
「全員無事。僕が居て死人を海で出すわけない」
《海に愛される子》という名を持つ自分が居て、海で犠牲者など出さない。
『ならいい。――俺らも作戦通りだ』
テッラの言葉を聞いて素早いなと感心してしまう。
『逃げ足と覚悟を決めた時と商売の勘が働いた時は早い。ラーセロに民の特徴だ』
「そこに海の上の機動力も入れておいてよ」
『知らん。それは海近隣の民だけだろ』
「まあ、そうだけど」
『お前はそのまま作戦を進めていろ。じゃあな』
通信が切れる。
「テッラ様は?」
「作戦をそのまま決行。――僕も出る事にした方がいいね」
兄ちゃんの作戦を成功させるために。
海の上に浮かぶ巨大な要塞。
「まるで、海の上のお城みたいだね」
ミレニアムヘヴンの軍艦。
「海を越えるのには適してますけど、景観を損ねる時点で減点物です」
ぷりぷりと怒って告げるのは紅一点の軍人。
「そこまでの技術があるのは凄いよ。――まあ、この海に適しないけどね」
機動力がある我が国の軍船が挑発している。
さっきから大砲を撃ってくるのを巧みに躱して――それでも無傷とはいかないが――逃げていく船達。
それを追いかけて進んでいく巨大な軍艦。
罠に掛かっている事実に気付いてない。
「良く分からないな……」
「マーレさま?」
「僕らは臆病だから戦争を仕掛ける前に万全に取り掛かれるようにいろいろ調べてきて宣戦布告をしたよ。そうしないと民も浮かばれないし、勝てるものも勝てなくなるから。でも、あの国はそれをしてない」
戦争に勝てる国は事前に用意している。
例えば、情報。
ノーテンのシュトルツの能力は誰よりも情報を仕入れるのが早い事。
情報を基にした計略をして、かつての強国という強みを生かして味方を増やす。
機動力と計略に関しては、エーヴィヒの上を行くものはいない。
僅かな情報と共に張り巡らす罠。
防衛特化でなければとっくの昔に強国に名乗りを出ただろう。だが幸運にもその貧しい国の在り方と防衛特化という能力でかの国は今まで強国に名乗りを出なかった。
その二つを見てもかの国はお粗末すぎる。
「情報を集めて、大義名分で味方を作るならまだしもあっちこっちに敵に回して。まるで子供のケンカみたいだ……」
新しい国とは聞いていたけど、お粗末すぎる。
「自分の民を可愛いと思わないのだろうか……」
あれでは殺される民が哀れだ。
兄ちゃんの作戦では多くの民が怪我を……人が死ぬのに。
「生まれたばかりだからこそ分からないのでしょう。戦争の悲惨さを」
「……戦争経験あるのに?」
「相手が優しすぎたのでしょう」
被害が少なかったから学ばなかった。
そう冷たい言葉に。
「ああ。それはあるかも」
だとしたらとんだ馬鹿だ。
「そんなのに僕達の民が殺されたなんて……」
その事実が悲しかった。
テッラの出番は次回。
あれ?
主人公は?




