134話 《理想郷》。歪んだ正義に走る
独りよがりな正義ってあるよね……
海上戦は派手な戦いだった。
軍艦が大砲を撃っているのを小型船が器用に避けての旋回。
小型船がその軍艦の間を潜り抜け、敵の軍艦によじ登って侵入しようとしているのを止めようと動く船員。
「ちょこまかちょこまかと逃げるなんて卑怯だぞ」
さっきから撃っているのに当たらない敵船にマイケルは文句を言う。
巨大な軍船。
この船で海を越えてきたのにいざ戦いになると小型なマイケルから見れば古い品落ちした船に翻弄されて身動きが取れない。
それでも敵船を攻撃して鎮めようとしているのに器用に避けられて間近にまで迫ってくる。
「ははっ。これが…ラーセロなのかい…」
海ではラーセロを敵に回すな。
陸上ではエーヴィヒを敵に回すな。
ミレニアムヘヴンに移住する前から囁かれていた不文律。もう世代交代をしてミレニアムヘヴンではその不文律を知っている民は居ないが、象徴である自分は最初の民から聞かされていた。
もっともその教えてくれた民も実際にラーセロが戦場に居るところは昔の事だから実際はどうか分からないと言っていて、ラーセロという国が商売の方に力を入れているので実際には強くないと思い込んでいた。
「最新鋭の技術は俺らが持っているんだぞ。ここで悪に屈する事は無いんだぞ!!」
そう。正義は俺らにある。
囚われの神地という国を助け出した。
かつて虐められていたその国を助けて守るのが俺らの役目だ。
なのに厚顔無恥にも虐めていた国が再びかの国の甘い汁を吸おうと群がっているのなら助け出さないといけない。
そうだ。
「正義は俺らにあるんだぞ!!」
そう正義は負けない。
ミレニアムヘヴンがパステルライツに負けた事実は彼の中ではあえて負けてあげたのだと折り合いを付けている。弱い者虐めをしているようでみっともないから敢えて負けてあげたのだと。
弱い者に手を差し伸ばして支援するのも正義の在り方だ。
だから、彼らが苦労している草取りをしやすい道具を貸して上げ、その使い方を見せてあげた。(その草がわざわざ育てている薬草で草を取った事で薬が不足している事を彼は知らない)
道も舗装して、移動を楽にしてあげた。(舗装用に敷き詰められた煉瓦は牛や馬の脚の負担になっていて結局使われてないのを彼は知らない)
危険な猛獣も狩ってあげた。(危険な猛獣と思われている生き物が育てている作物を荒らす草食動物を食べているので共栄関係を築いていたので無理に狩る程のものではなかった)
それらの行為が悉くパステルライツで生活している原住民の心証を下げている事実は彼は知らない。
そう自分が正義だと信じている悉くが、独りよがりな行為。
船を動かす。大砲で撃ち続ける。
だが、それが悉く当たらない。
機動力はラーセロの船が上。
もともと海上戦はラーセロの上に行く国は無い。
『――自分の声を上げるだけが正しい事じゃない』
マイケルの脳裏に自称兄が告げた忠告――いや、お説教が浮かぶ。
『一人よがりな考えでは孤独になるだけだ』
煩い。
俺は正しいんだ。
正義であれ。
そう願われて生まれたのだ。
自分は間違えない。
だから、
「お前達悪が栄える事は無いんだぞ!!」
そう主人公は最初は苦戦するが最後に勝つ。その方が物語も盛り上がる。
高らかに宣言して、大砲を撃つ。
その大砲がたまたまラーセロの船に当たったのが彼の目に映った。
戦闘シーンって苦手……




