130話 《剣》。相談を持ち掛ける
弟には見せれない弱音
こんこん
「ああ。貴女ですか?」
窓からノックをすると――ドアに行かないのは面倒だからである――沈痛そうに頭を押さえているシュトルツがいる。
「俺以外居ないだろう」
よっと窓から中に入る。
「窓から入らないで下さいと何回注意したでしょうね……」
弱弱しい声だ。
「寂しいな……」
昔はいろんな象徴がこの屋敷に暮らしていて、騒がしかった。だけど、今は誰もいない――。
「そうですか…。いえ。ああ、そうですね……」
遠い目。
「昔はたくさん暮らしてきましたからね」
部屋を見る。
昔はそこにたくさんの象徴が居た。
騎士団の象徴が大勢いて、皆いろいろ遊んでいた。
「あそこの角でよく俺は泣いてたな……」
壁の端を見る。
「ええ。そうでしたね……」
幻の幼い自分が見えるようだ。
「シュトルツ」
「ええ……」
「今回の件。エーリヒに頼れない」
「そうですね……」
「俺の力を使用する事になるだろう……」
「防衛特化の能力の能力ですか……」
溜息。
「――止めないのか?」
「止めたいですよ。正直」
防衛特化の力。それをすれば被害を最小限に抑えられる。だけど、
「貴女の……エーヴィヒの発言力が増しますからね。でも、貴女ならそれを喜ぶと思いましたよ」
喜んでませんね。
「………」
シュトルツの言葉に自嘲気に笑う。
「シュトルツ……発言力を増すという事は国力が強まるという事だろ。俺の想像以上に……」
国が大きくなるのは喜ばしい事だが、敵も多くなる。
「不安ですか? 大国になるという事が……」
「………」
答えられない。
「それとも……。玉座の名前が近付いてきているのを肌で感じましたか?」
玉座………。
「ああ」
守るから。そう決めて育ててきた。
「強くなったら……嫌でもその名前を感じてな。留守にしていた間の事もあるし」
「留守の間ですか……」
「ああ。アイツは強くなっていた。俺の手が必要にならない位な」
「……………」
シュトルツ。その聞いててあげますから続けて下さいという生暖かい空気は止めてくれないか。
「今は、俺の名の対である《盾》がアイツの力を封じる楔となっている。だけど、その楔も長く保たないと思えたんだ」
「そんな今だからこそ強くなるのは困るんですか」
「ああ。――リヒトには言ってないが、生き残りがいる」
「生き残り……それって」
「ああ。リヒトを生み出して、リヒトを捨てたムズィークの王族の生き残りだ」
「………」
シュトルツも意外だったのだろう。かつて仕えていた主君の一族が生き残っているなんて事は……。
「それでも、今はあなたの能力が必要です」
「ああ……」
「――かつての主君に逆らう事になりますが、今の平和をこのまま残しておきたい」
だから。
「ヒメルがもし、《玉座》の名に負けて、強国になるための無謀な事をするのであれば止めるのに手を貸してあげますよ」
「ああ。ダンケ」
「私も歳ですかね……」
昔なら強国になると思って無謀な事に付き合ったかもしれないけど、今はそんな気分になれないと告げられて。
「今に不満が無いからだろう」
と言葉を返した。
さておさらい。
《玉座》の名を持つ象徴は強国になるのが運命付けられている。
ただし、その国の末路は酷いありさまである。




