128話 《盾》。世界状況を聞かされる
頭はいいけど、まだまだ甘いリヒト
姉さんの抱いている危機感は他の国の象徴達も告げていた。
レーゲンブルネンを巻き込めない。
誰もが最初にそれを言う。
姉さんは国をはな得ていたから情報は遅れているはずなのに。どうして国同士の話し合いでそういう結論に達したのか見ていたように断言できるんだろう。
「レーゲンブルネン以外の国では無理なんでしょうか……」
「出来るかもしれないけど。信用度が違う。完全中立でどの国の利権にも関わらないからこそのの信頼だ」
「利権って……」
「うちの国で例えれば、野菜を格安に売るから味方になってくれと言われれば中立になれないだろう」
「……ああ。確かに」
納得してしまった。
どんなに中立にしようとしても不満が出たら野菜を売ってもらえなくなってしまうかもしれないし。
「あの国は独自の文化……しかも門外不出で俺らの上に行っている。その手の事に揺るがない」
「………」
一度行った事あるけど、動く部屋とか、動く階段とか不可思議な事が多かったな……。未だにあの国の不可思議な現象の正体が掴めない。
「神地と似てる……」
「――いや…」
つい呟いたら否定される。
「あそこはイーシュラット。神地と大きく異なる。イーシュラットは条件が重なったから起きた人外の領域。だけど、レーゲンブルネンは人が行く事が出来る領域なんだ」
だからこそ厄介なんだ。
そう言われるが、自分には分からない。
「……そうだな。分かり易く言えば、ミレニアムヘヴン……マイケルの能力は超常現象の消滅だ。人外の力はすべて消されるけど、人の行った形跡は消せない。つまり」
「レーゲンブルネンの力はマイケルの動きを封じられるんですか」
ならば余計レーゲンブルネンの協力を得ないと。
「あそこは動かない」
断言。
「姉さん」
「一つ。距離がありすぎる。エーリヒが動くのは近隣の要請があった時だけだ」
そうしないと中立性が損なわれるからな。
「二つ。ミレニアムヘヴンはレーゲンブルネンの価値を知らない」
そんな国が中立する。戦争を辞めろと言っても聞きやしないだろう。
「そして、三つ目。自分が動いて他国に自国が狙われるのを危惧してるんだ」
「………」
最後のが意味分からない。
「リヒト……まだまだだな」
もう少し学べ。
「すみません……」
「言っただろ。人が辿り着ける領域だと」
「はい……」
それがどういう事ですか。
「人が辿り着けるという事は、レーゲンブルネンの技術は盗めるんだ」
「あっ……」
そう言えばそういう事になる。
「だから門外不出………」
「ああ。――レーゲンブルネンの優位性もあの技術があっての事だ。あの国は自国の戦争まで干渉しているとその隙に近隣の国が手を盗んで一斉に襲い掛かって技術が盗まれたらと思うと動けないんだ」
「………」
一斉に手を組んで……。
「そんな事あるとは……」
「あるとは思えない? それが無いと言い切れないだろう」
だから動けない。
「ちなみに……我が国が実際それを行うとしたら」
どうなるのかと尋ねると。
「俺は勧めないが……。あの国は兵器も規格外だ。民の大半犠牲になって、おそらく数年作物が育たない環境になってしまうだろうな。割に合わん」
レーゲンブルネンの技術は喉から手が出るほど欲しいが、民を危険にさらせない。
姉さんの言葉に、安堵して――うちの国がそんな暴挙に出るのはいくらなんでも心臓に悪い――。
「なら、他の国も似たようなものじゃ……」
「リンデンもか?」
「あっ……」
そうだ。リンデンはやりかねない国だ。
「そういう意味じゃ。俺からしてもレーゲンブルネンに動かれちゃ困るんだ」
「………」
うん。リンデンの脅威に曝されてるのはうちの国だからな。
「ああ。――だからか」
「姉さん?」
「陛下も考えたな」
一人納得しないで欲しいのだが。
「リヒト」
「はい」
「また俺は留守にすると思う。頼んだぞ」
姉さんは意味不明な事を言い出して――しかも決定事項――俺の肩に手を置いた。
因みにレーゲンブルネンの技術はリヒトが知っている技術よりまた進んでいたりする




