124話 《剣》。その地に帰還する
そろそろ合流だよ
潮の香りが変化したように思えるのは、大陸を一つ超えたからだろうか。
それとも気温とか湿度とかそういうのが影響しているんだろうか……。
「もうじき着きますよ」
そんな事を考えていたら声を掛けられる。
「早いな」
行きはもう少し時間が掛かったが……。
「そこはさすが神地と言うべきか……侵入者を簡単に入れられない様になっていたんですよ」
「? なんだそれ?」
「そのままです」
説明された内容は、神地という大陸の海域は、魔の領域と言われるあらゆる自然現象で船が沈没しやすい特殊な磁場があるらしい。
それを避けての航海だ。行きはかなり苦労するが、帰りは、神地の住民――神の方だが――が安全祈願という力を紡いでくれるので無事に抜けられる――それは、その手の術を無効化してしまうミレニアムヘヴンにも有効だったらしい――。
案外、神地が決壊を築いてほかの大陸を拒んでいたのは、その魔の領域で亡くなる人を減らしたかったからかもしれないな。
とくん
胸が高鳴る。
何といえばいいのだろう。いままで、失っていた手足が戻ってきたような感覚。
――今まで、考えた事は無かった。とても遠い距離に離れて、そしてようやく帰ってきた。近付いたから感じるのだろう。
ああ。象徴が国元を離れるとこういう感覚なのか。そして、戻るとここまで、
(泣きたくなるほど、嬉しいものなんだな)
実際泣かないがな。
やがて、自分の目にも陸地が見えてくる。
「ルーデル卿」
「ああ。――俺にも見えてる」
部下の言葉に言葉を返し、その懐かしい故郷に視線を向け続ける。
と、そこに、黒い点が大陸の方から見えてくる。
(……?)
なんだろう。黒い点が大きくなってきて、こっちに向かってきているような………。
「なんだあれは?」
「わっ、分かりません!!」
バタバタと慌てる声が響く。
得体のしれない塊。
「もしかしたら敵の攻撃か」
「まさか、我が国は今回の戦争に無関係と公表しているはずだぞ!!」
「象徴が巻き込まれたら否応もなく巻き込まれるだろう!!」
船の乗組員が騒ぎ出す。冷静な者が居ないようだな。
はぁ
「非常事態こそ冷静にと鍛えたはずだが」
鍛え直すか。
その言葉で急に慌てていた者たち全員の動きが止まる。
どうやら皆思い出したようだ。俺の――地獄の――訓練を――。
「――双眼鏡を」
「はっ、はいっ⁉」
近くの部下に声を掛ける。
「どっ、どうぞ」
「ダンケ」
受け取り、その点を覗いてみると……。
「ああ……」
「ルっ、ルーデル卿……」
「ああ。悪い」
慌てさせたが。
「あれ、俺の迎えだ」
苦笑を浮かべるのは仕方ないだろう。
「ルーデル卿の迎え……?」
「ああ。……………ナルホド」
遠い目になっているな。
(まあ、仕方ないか)
迫ってくるその黒い点は肉眼でも分かってくるようになった。
そう――。
「ルーデル卿」
「ああ……」
「再会のあいさつは構いませんが船には載せないでください」
「分かってる……」
本当は近付かれても困るんだろうな。
その黒い点。鳥の群れ。
「種族が違うのにあそこまで集団行動できるんですね……」
部下の目が死んでいる。そう、俺が居ないのに寂しがってだろう様々な種族の鳥の群れを見て、最初にする事がまさか、船に糞を落とさないように注意する事だと思わなかった…………。
鳥が寂しがってました。
リヒト「俺より先に再会するなんて……」




